第3話 小鳥遊祭
僕と見ル野は、八重城の身辺調査に取り掛かった。
そして、二週間が経った頃、色々なことが分かってきた。登下校時間の傾向、昼休憩時間の行動パターン、帰り道、家、家族構成…等々。
「見ル野……結構ノリノリで調べてたけど、だんだんやばいことしてんじゃないかって自覚湧いてきた」
「恋……お前もか、遅かったな。俺も一昨日ぐらいから思ってたとこだ。やっぱり気が合うな」
見ル野は、そう言うと拳を僕へ向け、何かを待っている。これは僕の返答、いや、反応待ち、僕の拳を見ル野の拳へ当て返すと、見ル野は満足気な表情を浮かべるのだ。
何かの青春漫画にあてられたのか、最近やたらこれを要求してくる。
僕としては、拳をぶつけ合うといった、いかにも青春の1ページ的な事を、それも人の目に触れるかもしれない所でするのは、正直恥ずかしいのだが。
勿論、この意見は見ル野にも伝えたが、奴はやめないのだ。だから、大抵無視するか、渋々付き合っている。
今回は……、まぁ、付き合ってやるか。
見ル野は、満足気に僕へ視線をやる。僕は、その視線に気づきながらも、目を合わせようとはしなかった。
「で、この二週間で分かったのは八重城についての知らないことが、少し減った程度だけど、次どうするか考えてる?」
「……今の所、恋の話に関係ありそうな収穫はないな。これ以上何調べていいかもイマイチ分からないし、どうしよ」
僕と見ル野は、ここ数日で日課となってしまっている八重城の身辺調査のため、校門近く見通しの良い場所で、八重城が現れるのを待っていた。これといった目的がある訳ではない、ただ……何か起こるかもしれない、その程度だ。
だが実際、気分はもう探偵であった。この時間帯、校門を通る生徒は多く、逃さないように長い時間待機するのも中々に大変である。
そのせいか、集中のあまり僕たちは、背後から迫る人影に気づかなかった。
「——君たち、最近二人でコソコソと何をしてるのかな?」
見ル野は、突如背後から発せられた言葉に動揺を隠せないようであったが、僕はわりかし冷静だった。なぜなら、その声は昔から聞き覚えのあるもので、すぐに声の主の特定に至ったからだ。
振り返ると、そこには制服に着せられているような、小柄な黒髪ショートカットの少女が立っており、いかにも、クラスの学級委員長が非行少年を叱りつけているかのように、両手を腰にあて、前のめりに顔を突き出し、眉をひそめ、丸い目を少し細めてこちらを睨みつけていた?
いや、正そう。睨みつけているというと、どうも強く、野蛮な言葉のように感じるが、実際はその表情に人を恐縮させるような力はなく。
ただ、「私は君たちのこと怪しんでますよ」と伝わるぐらいの、それぐらいのニュアンスである。
——
クラスのお助け隊的キャラで、正義感が強く、考えるより行動が先行してしまうような、所謂いい奴で、僕とは古い付き合いがある、というか幼馴染だ。
「なんだ、祭か……、びっくりさせんなよ」
まぁ、あんまりびっくりはしなかったんだけれども。
「恋くんさ、最近やたらと見ル野くんとよくつるんでるし、行動もなんかコソコソしてるというか、つまり、ちょー怪しいんだよね」
「何言ってるんだよ。見ル野とは高校入ってから仲良くなったけど、お互い部活も入ってないんだから別に一緒に居ても不自然ないだろ?行動だって、ほら……普通だよ」
「じゃあ……、今、何してたのかな?」
「……祭、知らないか?最近このあたり、不審者の目撃情報がちらほら出てるだろ?物騒だからさ、僕と見ル野でこうやって学校周辺に警戒網はってんだよ、パトロール的な。な?見ル野?」
「お、おう」
見ル野は演技が下手くそだな。でも、祭の場合これぐらいでも問題ない。
祭は、弩が付くほど正義感が強く、お人好しなのだが、頭の方が少し弱い。
幼い頃から、祭のヒーローごっこに幾度となく付き合わされてきたが、一度として祭は自身の力で解決したことが無かった。
まあ、持ち前の人たらしな性格から、周りにはいつも助けてくれる人がいて、助ける人も喜んで手を貸す結果、事なきを得るのだが……。
「へー、そーだったんだ。恋くんはやっぱりすごいね。それなら私からも改めてお願いするね。でも、危なくなったら、私か、ちゃんとした大人に頼るんだよ。約束だよ?」
祭は、委員長ポーズを解き、僕を指差して話した。
「分かったよ。で、祭今日部活は?」
「今日はちょっと家の用事でお休みもらったんだ。……あ、そういえば、知り合いのお家から美味しい和菓子沢山もらったの。食べ切れないから、また持ってくね。」
「ん、ありがと。じゃ、また。気をつけて帰れよ」
「はーい。それじゃあね」
そう言うと、祭はその場を後にして帰っていった。
もう、ずいぶんと姿が小さくなったところで、振り返り、遠く、微かに聞こえる声で何やら叫んでるようだ。
ミ、ル、ノ、ク、ン、モ、ア、リ、ガ、ト、ウ、ネー。
遠く、姿は点ほどにしか見えないが、手のような陰がぶんぶんと左右に揺れているのが分かった。
帰り道の途中で、見ル野へお礼の気持ちを伝えていないことに気づいたのだろう。伝えずにはいられなかったのだ。祭はそういう奴だ。
「いい奴ではあるよな……」
「小鳥遊、うん、いい奴だな」
「はあ、何か気が削がれた。駄菓子屋寄って帰るか」
「だな」
再び、拳を突き出してくる見ル野。
僕はそれを見なかったことにして、駄菓子屋へ向かった。
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