第8話 メイスンのドローン大作戦
その頃、メイスンは火炎放射器を搭載したドローンを降下させ、あの柿の木に近づけていた。
その柿を守る
「来ましたねカキノワグマ……」
メイスンは右手でリモコンを握りながら、左手に構えた双眼鏡越しにクマの姿を捉えた。
「ファイア!」
リモコンのボタンを押すと、ドローンの下部に装備された火炎放射器の口から炎が放たれた。上空からの火炎放射攻撃には、クマといえども抗しえない。炎に包まれたクマは身悶えし、その場をのたうち回った末、アスファルトの上に倒れ伏した。今度こそ、クマに最期が訪れたのであった。
「よし、これで厄介なクマは仕留めました。後は木を燃やしてしまうだけです」
神崎曰く、柿の木の異常なまでの光合成によって、木の周りは酸素濃度が高くなっているのだという。だから、よく燃えてくれるはずだ。
その時、何かがドローン目掛けて飛来した。それは見たところ、オレンジ色をしており、形状は丸みを帯びていた。
「まさか……柿が飛んだ?」
柿は、自らの牙をドローンにがっちりと食い込ませ噛みついていた。そして、柿は一つだけではなかった。次々と柿の実が飛んできては、ドローンに噛みついていく。ブレードが破壊され、ローターが食い破られ、翼を失ったドローンは呆気なく墜落させられてしまった。
柿が空を飛ぶ……予想外の進化であった。だが、メイスンは心乱されることなく、静かに深呼吸をした。
「なるほど、空飛ぶ柿と来ましたか……でも負けませんよ!」
メイスンは二機目のドローンを離陸させた。空中に浮いたドローンは、ビルを離れるとどんどん高度を下げていく。残るドローンはこれだけだ。もう失敗はできない。けれども、メイスンは決してその顔に悲観の色を浮かべることはしなかった。
ドローン目掛けて、空飛ぶ柿の実が集まってきた。先ほどは不意を打たれて墜落させられたが、今度は敵が飛行することを分かっている。メイスンは右に左に、上手い具合に柿の実を回避していった。それでも柿の実は、まるでミサイルのようにしつこく追尾してくる。そして、新手の柿が次々と離陸しては、正面からドローンの行く手を塞いだ。
「ええい邪魔です!」
メイスンは柿を排除するために、ドローンの火炎放射器を使った。放たれる火炎に巻かれた柿は黒々と焦げていき、面白いように次々と力なく墜落していく。
「このまま突貫!」
メイスンはドローンを斜めに降下させ、そのまま柿の木を目指した。このまま行けば、火炎放射器の射程に木を収めることができる。
しかし、そうは問屋が卸さなかった。大量の柿の実が、ドローンの目の前の空中に展開したのである。メイスンはまたしても火炎放射で柿の実を駆逐したが、それでも柿の実は物量に任せてドローンに迫りくる。
そしてとうとう、一つの柿の実がドローンに噛みついた。それを皮切りにして、二つ、三つ、四つ、五つ……と、まるでハチの群れに襲われるかのように、ドローンをびっしりと柿の実が覆ってしまった。
ドローンは、柿の実の重みに耐えられなかった。ローターやブレードなどの飛行部品を噛み砕かれるまでもなく、ドローンは墜落していったのである。
「何のこれしき!」
それでも、メイスンは勝機を信じた。必死でドローンを操作し、少しでも、少しでも柿の木へと近づけた。
段々と高度を下げていくドローン。それが墜落したのは、柿の木の真上であった。柿の木の近くに立っていれば、がさりという音が聞かれたであろう。ドローンは柿の枝と枝の間に挟まったのである。
後は火炎放射器で焼いてしまえばいい。そう思って、メイスンは双眼鏡でドローンを視界に収めつつ、リモコンのボタンを押した。だが、火炎放射器から炎は噴き出ない。何度ボタンを押しても、火炎放射器はうんともすんとも言わなかった。
「ガス欠ですか……」
柿の実を駆逐するために、火炎放射器の燃料を使いすぎたのだ。
「こうなったら……時雨サンに頼むしかないですね」
メイスンは発煙筒を懐から取り出すと、擦り板を擦って点火し、煙を立てた。
灰色の煙は、もうもうと天を目指して立ち上っている。この煙が、時雨への合図であった。
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