第11話 永久の別れを願う君

黒い魔力に包まれてから数時間、この中から抜け出すことも助けを呼ぶともできずにいた。

リュークはどんどん増えていく魔力に苦しみ、姿がどんどん魔王リュークに近づいていく。


「かはっ…ハァハァハァ…に…兄…様」


俺を探す手が空を切る。

すぐにその手を取り握りしめる。


「ごめん…ごめんなさい…俺がお前に無理させたから!こんな…」


きっとリュークが魔王になる最大の原因は、連日の魔獣退治とビッグ・ドラゴン討伐での魔力の使い過ぎが大きいと思う。


どうすれば…


リュークはまだ12歳なんだ…成人を迎える前に、なんでこんな風に苦しめられなきゃいけないんだろう…


すると、リュークがいきなり俺の肩に思い切り噛み付いてきた。


「ぐあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"っ!」


牙が肉に食い込み思わず叫び声をあげる。


痛い…でもこんな痛みなんてリュークの痛みの比じゃない…


俺はそっと俺の肩に噛み付くリュークの頭をそっと撫でた。


「だ…大丈夫だ…俺はお前を一人なんて、しないからな…リューク…」


俺は片腕をリュークの背中にまわしぎゅっと抱きしめた。


ふいに痛む肩から口が離れる。


「兄…様…兄様…」


みるみるうちにリュークの髪や瞳が元の鮮やかなピンク色に変わっていく。

リュークは寂しかったんだな…ずっと俺のいない間、一人で頑張ってきたんだからな…


もう一度リュークを抱きしめようとした時、視界がどんどん狭くなり霞んでいく。

出血多量で体がもたないんだろう。


俺はリュークに愛してると告げると意識を手放してしまった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


目が覚めると、俺はベッドの上にいた。

その横では目の下を真っ赤に泣き腫らしながら眠るベリルがいた。


「俺は…どうなったんだ…?」


ベリルがピクッと動き、目を覚ます。


「クレオ!あぁ…よかった、よかったよ!」


ベリルは俺を渾身の力で抱きしめる。

正直骨が折れそうで痛かった。


すると、コンコンと壁をノックする音と共に、俺の親族の一人で先代の王の弟の息子であるクリエスタ・ルーカスがたっていた。


「クリエスタ兄さん!」


「クレオ、よかった目を覚ましたんだね。」


クリエスタは優しい笑顔を浮かべた。


そして俺に一通の手紙を渡してくれた。


「これは何?誰からの手紙なんだ?」


クリエスタは優しく俺に教えてくれた。


「それはリュークから君宛に部屋の前に置いてあったものなんだよ。」


リュークからの手紙?なんで…

そういえばリュークがいない。俺が目を覚ましたのを一番喜んでくれそうなのに…


「クリエスタ兄さん…リュークはどこにいるんだ?」


クリエスタはうつむいて黙ってしまった。

ベリルが代わりに状況を説明してくれた。


「ビッグ・ドラゴンとの戦いの後、リュークとクレオは黒い魔力の中から出てきたんだが、クレオが眠っている間に手紙だけおいてリュークがいなくなっていたんだ…」


そんな…リュークが、俺をおいて…

悲しさと悔しさが同時に押し寄せて来る。


「兄さん、ベリル…ちょっと一人にしてくれ…お願いだ。」


そう言うと、二人は部屋を出ていった。


俺はすぐに手紙を開け、中身を読んだ。


親愛なるクレオ兄様へ、


怪我の具合はどうですか?俺が弱かったせいで兄様にそんな大きな怪我を負わせてしまいました。申し訳ありません。


この度、このリューク・ルーカスは自分の弱さと醜さを改めて思い知らされ、旅に出ることにいたしました。

もうきっと兄様やベリルに二度と会うことはないでしょう。国に戻るつもりも一切ありません。

俺はこの12年間で、兄様の大切さや愛しさをずっと感じてきました。

兄様が俺の前からいなくなったあの日も、やっと見つけ出せたあの日も、俺は兄様が愛しくてたまらなかったし、兄様を傷つける者が許せなかった。

俺はそれなのにも関わらず、己の欲望を満たすためだけに兄様にたくさんひどいことをしました。


兄様、俺は貴方の弟であれたことが何よりの誇りです。どうか、そのまま元気で幸せな生活を送ってください。

俺はどんなときでも兄様の幸せを願っています。

今までありがとうございました。お元気で。


           リューク・ルーカス


涙がボロボロと溢れだす。止まらない。

俺はリュークが隣で笑ってくれているならなんでもよかったんだ。

無理矢理犯されても何をされても、お前がいてくれさえすれば、良かったんだよ…リューク。


「勝手なこと言ってんじゃねぇよ…俺もお前が大切だし、愛しくて愛しくてたまらないのに…俺の前からいなくならないでよ…リューク…リューク!!」


前が涙で見えなくなる。

辛い、苦しい…リューク…助けてよ…


「リューク…リューク!!うわぁーーーーーーー!!!」


俺はその後、何か景色を見るたびリュークを思い出して泣き出してしまう日々が何ヶ月も続いた。

王としての仕事もほとんど手付かずで、もう何もできなかった。


そんなときクリエスタが俺にこんな提案をしてきてくれた。


「旅に出なさい、クレオ。」


「旅に?俺が?」


クリエスタはニコリと笑って、


「そうだ。お前がリュークに会いたいのなら、会いに探しに行けばいい。もちろん、王としての仕事は俺がこなしておくから!」


俺は嬉しかった。

リュークを探しに行ける、また会えるかもしれないと言うことに。


そして、俺は旅に出ることにした。

王位は早々にクリエスタに託し、ベリルに話をもちかけると快くOKして一緒に来てくれることになった。


どの国でもベリルの戦果が広まり、全国で獣人の受け入れを始めているそうだ。


「クリエスタ兄さん、後はよろしくお願いします。」


旅立ちの日、俺は再度クリエスタに礼を言った。


そして、ベリルと共にリュークを探しに旅へでかけたのであった。





第1章 国の王子である俺の弟が将来魔王になって世界を滅ぼし俺を殺すのをのを全力で阻止しようとした結果  完


後の話は第2章へ続く

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