第8話 獣人はなにかと優しい

俺を助けてくれた褐色の獣人の名は、ベリルと言った。


ベリルはこの王城近くの魔物の森の奥深くに小屋を立て、ほそぼそと生活しているらしい。


獣人にも、獣人国【ウルフェイン】と言う国がある。

ほとんどの獣人が人と関わらないように、【ウルフェイン】に移り住んでいる。


「なんでベリルは、こんな森の中にいるんだ?人間に見つかれば殺されるんだぞ?」


ベリルは獣の、狼の耳をピコピコと嬉しそうに動かしながら言った。


「殺されるんなら、自分はもうクレオ様を見つけた時点で殺されているはずだからな、それに自分は人間と仲良くなりたいんだ。」


俺の体中にできた爪痕やすり傷をていねいに治療してくれる様子を見て、本当に人間と仲良くなりたいんだなと思った。


「でも、人間と仲良くなりたいなら他国の方がいいんじゃないか?獣人を受け入れてる国もあるし」


だがベリルは首を横にふった。


「自分はこの国の人たちと仲良くなりたいんだ。誰も仲良くできなかった人たちと仲良くできたら、みんな自分のこと褒めてくれるかもしれないから…」


ベリルは悲しそうな顔をして言った。

耳も尻尾も垂れ下がっている。


でも、俺がこの国の法律や考え方をどう変えようとこの国の奴らはベリル達獣人を絶対に受け入れない。


俺に1ついい案が浮かんだ。


「なぁベリル!お前が俺のことを助けてくれたんだしさ、俺を王城まで連れてってくれれば国民の獣人に対する考えを変えられるかもしれない!」


ベリルは目をキラキラと輝かせ、尻尾が飛んでいきそうなほど激しく揺れている。


「本当か?少しでも可能性があるのなら、やってみたい!と言うかやらせてくれ!」


こうして、ベリルは俺にぶかぶかだが服を着せ王城へと俺を抱き上げむかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


pov〜リューク〜


兄様が…国王陛下がキング・スライムにさらわれてからもう何十時間もたっている。

森に逃げ込んだのに、痕跡一つ見つけられないのはなぜだ…


あぁ…気が狂いそうだ…

なぜ大好きで大事な兄様を、俺から皆遠ざけるんだ…


兄様は俺のものなのに…

いっそのこと、この世を滅ぼす魔王にでもなれば兄様は俺のそばにいてくれるのか?


あぁ…あぁ…あぁ…

もう、耐えられない…


「リューク様!」


騎士団の団員が声を上げる。


「なんだ…何か痕跡でも見つけたか…?」


「はい!森の奥深くの洞窟でキング・スライムを発見いたしました!王の安否はまだ不明です!」


俺はすぐさま甲冑を着直し、大剣を腰に下げた。


「今から国王陛下を奪還、及びキング・スライムを排除する!皆のもの用意はいいか!」


「「「「「「おおーー!!!」」」」」」


そして、騎士団を引き連れ森へ突撃開始をするため城につながる橋を渡った。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ベリルは俺の怪我をいたわり、少しゆっくりと城へ向かってくれた。


森を抜け、城の門へとつながる橋を渡っていると門の方からたくさんの騎士団を引き連れたリュークが向かってくるのが見えた。


「リュークだ!おーいリューッ…ゴホゴホッゲホッ!」


大きな声を出そうとするも、咳き込んでしまいなかなか出ない。


そのことを察してくれたのかベリルが上をむいて、一声吠えた。


「アオォーーーーーーン!!!!」


すると、むかってきていたリューク達の足が止まった。


「これで近づけるな!」


そう言って、スタスタとリューク達の方へ歩き出した。


「そこの獣人!止まれ!」


リュークが大剣を抜き、まっすぐベリルの方へとむける。


だが、ベリルは怯えて縮こまることはなく言った。


「自分はベリルといいます!クレオ国王陛下を森で助けたので、連れてきました!」


リュークも騎士団達もみんな目を丸くしていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


ひとまず王城へと入り、俺は治療師にヒールをかけてもらいリュークはベリルと何か話していた。


「ありがとうな、ベリル!お前のおかげでリュークと再会できたし本当にありがとう!」


「俺も感謝します。兄さ…国王陛下を助けてくれてどうもありがとう。」


リュークちょっと兄様って言いかけたな…


ベリルはお礼を言われたのが嬉しかったのか、顔を真っ赤にしていた。


「今回の礼として、何かお前にあげたいんだが…何がいい?」


するとベリルは元気よく言った。


「ここで自分を働かせてくれ!」

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