第2話:受付嬢

「ラマーニュさん、本当に本気なのですか?

 基本冒険者は自己責任ですから、ギルドは余計なことは言いません。

 ですが流石に三歳児を背負ってダンジョンに入るというのは、見過ごす事はできないですよ」


 まだ年若い冒険者ギルドの受付嬢が、顔を歪めて制止しようとする。

 ビュースを心配して言ってくれているのだろうが、余計なお世話である。

 私には私の考えがあり事情があるのだ。


「心配してくれているのだろうが、家にはおいておけないのだよ。

 元の夫の家が、ビュースを奪おうと躍起になっている。

 母親の私がこの子を護らねば、誰も護ってはくれないのだ」


「私もだいたいの事情は耳にしていますが、それでいいではありませんか。

 没落したとはいえ、ティルース家は伯爵のしゃ、」


「それ以上口にしたら、殺すぞ」


 私は剣を抜いて受付嬢の顔を浅く斬ってやりました。

 同時に少し動かして、喉を裂き斬れる位置で止めました。

 日頃は抑えている殺気を、指向性を持たせて受付嬢にだけ放ちます。

 上級魔獣ですら怯えて金縛りにする殺気ですから、受付嬢ごときに耐えられるわけもなく、周囲に便臭が広がりました。

 あまりの恐怖に耐えきれず、失禁脱糞したのでしょう。


「申し訳ありません、ラマーニュ様、

 こいつにはあとで厳しく言い聞かせておきますから、命ばかりは許してやってください、どうかこの通りです、お願いします」


 私の現役時代を知っているギルド職員が、跳んでやってきました。

 指向性を持たせているとはいえ、よくこの状況で動けたものです。

 その勇気と胆力に免じて、この受付嬢は殺さないであげます。

 ただし、一生残る傷は与えておきます。

 鼻をまたいで、顔の横一線に広がる刀傷、一生の教訓になりますね。


「貴男の度胸に免じて命は助けてあげますが、顔の傷は一生背負ってもらいます。

 魔法薬や魔術で治しても、私がまた傷をつけに行きますから、無駄ですよ。

 その事、気がついたらよく言い聞かせておきなさい」


「はい、正気を保っていれば、よく言い聞かせておきます。

 まあ、まず間違いなく正気を失ってしまっているでしょうが……」


 ああ、確かにそうなるかもしれませんね。

 一瞬ですが、本気の殺意を放ってしまいましたからね。

 なんの事情も分からないで、ビュースを死地に追いやるような事を、平気で口にしましたからね。


 ティルース伯爵家が没落しているとは知らないスリュアは、教会に妊娠していると言い張って、強引にボルジュの妻になりました。

 そんな所にビュースを渡したら、いつ殺されるか分かりません。

 それを、この腐れ女は!

 また怒りが噴き出してきましたが、ギルド職員に放つわけにいきませんから、ダンジョンの魔獣を相手に憂さ晴らしさせてもらいましょう。

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