私の居場所 201

 この男、普段は年代物のアメリカ製のオープンカーに乗ってるサングラスの男です。サングラスがないだけでかなり雰囲気が変わります。完全に別人。

 男はぽつり。

「今日も違うクルマかよ? こいつ、いったい何台クルマ持ってるんだよ?」

 と、ナンバープレートの「わ」の字に気づき、苦笑。

「ふ、なんだ、レンタカーか?」

 隊長のセダンが走り出しました。男はスマホを取り出しました。電話として使うようです。


 ここは真っ暗闇。どこなのか判明できません。と、突然ルルルルルという振動音。同時にスマホの明かりがともりました。電話です。何者かがその電話に出ました。

「もしもし・・・」

 わずかなスマホの明かりに現れた顔は、啓一のものでした。


 再びファミレス前。スマホを電話として使ってる男。

「やつら、出ましたよ、ファミレスを!」


 再び暗闇の中。啓一はスマホに応えます。

「ふ、わかった!」

 啓一はスマホの電話を切りました。あたりは再び真っ暗闇に包まれました。と、啓一ではない声が。

「坊ちゃん、いよいよですねぇ!」

 それはモヒカンの男の声でした。啓一は応えます。

「ああ」

 今度は別の人の声が。

「しかし、坊ちゃん、よくこの作戦、思いつきましたねぇ・・・」

 それはリーゼントの男の声でした。

「ふふ、昨日逃げるとき、気づいたんだよ」

 啓一はそう応えると、昨夜のことを思い出しました。真土邸と背中合わせになってる邸宅。異様に警備が厚く、近づくことさえ不可能でした。それを見て啓一たちは唖然。監視カメラが啓一たちを捉えようとすると、啓一たちは慌てて逃げだしました。

「昨日はびびっちまったが、今日こそは決めてやるぜ!」

 と言うと、啓一は何かを取り出しました。それは大型の番線カッター(ボルトクリッパー)。薄い金属ならなんでも切断してしまう切断用の工具です。


 街道にしてはちょっと狭くって暗い片側1車線の道路。そこを隊長のセダンが走ってます。

 その車内。いつものように隊長がハンドルを握り、助手席に明石悠、後部座席には日向隊員と真土灯里が座ってます。3人の女子はおしゃべりを続けてました。

 日向隊員。

「いよいよ明日だね、私たちの正式デビュー!」

 真土灯里が応えます。

「うん!」

 明石悠はぽつり。

「私たち、売れるかなあ?・・・」

 真土灯里。

「大丈夫大丈夫。千石さんも代官さんも久領さんも長~い間バンドやってるんだ。バンドのノウハウは全部知ってるはず。きっと売れるよ!」

 明石悠は振り返り、真土灯里を見て、

「ほんと?」

「うん、ほんと!」

「あは、あの人たちとバンド組んでたなんて、真土さんのお父さんてほんとすごい人だったんだね!」

 真土灯里は今度は日向隊員を見て、

「それだけじゃないよ、私たち真夜中のノックには、日向さんもいる!」

 日向隊員はびっくり。

「え、また私?」

「日向さんは私たちのエース。将来私たち3人だけになっても、きっとバンドやってけるよ!」

 そう、真土灯里は将来のことも考えてました。真土灯里・日向隊員・明石悠の3人と千石さん・代官さん・久領さんの3人じゃ、年の差あり過ぎです。真夜中のノックはいつかは自然分裂するかもしれません。

 日向隊員はまたもや赤面。

「もう、真土さんの方がずーっとエースだって!」

 ハンドルを握ってる隊長は、それを聞いて

「ふ」

 と笑みを浮かべました。

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