私の居場所 186

 高浜さんの発言が続いてます。

見附やつがギタリストになったきっかけは、オレたちのデビュー曲だったらしい。真土勝之のギターを聴いて、一瞬で憧れたようだ。

 それで見附やつは・・・ いや、Technical-Hやつらは真夜中のノックをリスペクトしてたんだ。

 オレは、あの曲を演奏プレイしたのはオレたちだが、作詞作曲したのは別のアーティストだ。その人からOKをもらえばいいんじゃないかとアドバイスしたな。

 けど、真土勝之の脳内には、別の考えが発生したようだ。次の日昔所属していたレコード会社に行って、再メジャーデビューを訴えたんだ」

 日向隊員が質問。

「Technical-Hがデビュー曲をカバーしてくれる今なら、売れるはずだと訴えたんですか?」

「まあ、そんなところだったんだろうな? 真土勝之あいつの話だと、レコード会社のお偉方はしぶちんだったようだが、なんとか1曲だけという約束で再デビューさせてもらうことになった。

 オレと真土勝之あいつはTechnical-Hの厚意に甘え、彼らのコンサートツアーに帯同し、ずーっと前座を務めた。そのうちオレたちの再メジャーデビュー曲undercoverに火がつき、ツアーが終わるころには、大ヒットになってたんだ。

 真土勝之あいつは大喜びだったな。見附もほかのTechnical-Hのメンバーも喜んでくれた。オレも当然喜んだが、どうしても1つ気に喰わないところがあった。それは作詞だ。

 前にも言った通り、真夜中のノックの曲の作詞はずーっとオレがやってた。なのに初めて真土勝之あいつが作詞した曲がヒットしたんだ。なんでオレが作詞した曲じゃないんだ? 正直かなり気分が悪かったよ。

 そこでオレは一計を案じた。真夜中のノックの曲はそれまでは真土勝之あいつがメロディを作り、オレがそれに詞をはめ合わせて作るってパターンだったが、オレはあえて先に詞を作り、それを真土勝之あいつに渡したんだ」

 千石さん。

詞先しせんていうやつだな」

「ああ。真土勝之やつはそれを持って帰ったが、それから10日以上も連絡がなかった。オレの作品は棄てられたかなと思ったころ、ようやくオレの眼の前に真土勝之やつは現れたんだ。

 さっそく真土勝之やつはギター弾き語りで歌い始めた。オレはどんな曲になってるのかうきうきわくわくしたが、すぐにあれっていう感じになった。オレが作った詞とは丸っきり違う詞だったんだ」

 千石さん。

「それが今灯里ちゃんが歌った曲なんだな?」

「ああ。オレは真土勝之やつになんで詞が違うんだと喰ってかかった。そしたら真土勝之やつは、あの詞じゃダメだ。あれは人の琴線に触れるような詞じゃないと応えやがったんだ。

 オレは一瞬で頭に血がのぼったな。そこからはもう本気の殴り合いだった。一番被害を受けたのは・・・」

 高浜さんは横目で諏訪さんを見て、

「オレたちを止めようとした彼だった」

 諏訪さんは苦笑いで、

「あは、あんときはマジで痛かったですよ」

 高浜さんは言葉を続けます。

「オレが真土勝之やつを見たのは、それが最後だったな」

 さらに、

「そのあと真土勝之やつが自殺したという一報を聞いて、オレは心底ザマァミロと嘲笑したっけな」

 と言おうとしましたが、真土勝之の実の娘真土灯里の前です。それは言わないでおきました。

 高浜さんの言葉が続きます。

「オレと真土勝之やつは完全に仲たがいしてしまったが、さすがに葬式には行った」

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