私の居場所 187

 高浜さんの発言が続いてます。

真土勝之やつの葬式に行くと、普段話すことがめったにない有名なアーティストや作詞家も集まってて、こんなこと話してたんだ。

 undercoverはとてもすばらしい曲だ。特に詞がいい。ちゃんとメロディやリズムを考えて詞を作ってる。ここまで考えて作られた詞はめったにない・・・

 オレはそれを聞いて頭をガーンと殴られた気分になった。真夜中のノックがなかなか売れなかった原因は、オレのせいだとそのとき初めて気づいたんだ。オレの書いた詞じゃ、リスナーの琴線に触れることはできなかったんだよ。

 なのにオレは、それに気づくことができなかった。印税を公平に分けるという理由で、オレが作詞してたんだ。ロクに作詞するテクニックも何もないくせに・・・」

 高浜さんは真土灯里を見て、

「灯里ちゃんは自分の名前の意味、知ってんよな?」

「はい。昭和40年くらいまで日本では街灯が少なく、特に山道は暗闇に包まれてました。けど、どうしても真夜中に山を越えないといけない人もいて、そういう人はわずかなあかりを頼りに山を越えてました。

 でも、真っ暗な山道を歩き続けてると心許こころもとなくなります。そんなとき遠くにあかりを見つけたらほっとします。そこに人家があるからです。

 お前はそんな希望のあかりになれ、という理由でともしびの里、灯里と名付けられました」

「ふふ、その通り。真っ暗な山道を越えてる最中、集落のあかりを見つけたら、誰だってほっとするよな。

 灯里、よく考えられた名前だよ、君の名前は。こんなに素晴らしい名前を思いついた君のお父さんは、作曲家メロディメーカーであると同時に詩人でもあったんだ。

 もし最初っから真土勝之やつに作詞も作曲も任せ、オレはヴォーカルに専念してたら、真夜中のノックはもっともっと早く売れていたはずだ。

 オレは反省したが、もう真土勝之やつは帰ってこない。せめて真土勝之やつの居場所を奪ったやつらを制裁しないと・・・」

 それを聞いて日向隊員は思いました。

「だから高浜さんは、次の参議院選挙に立候補するつもりなんだ。国会議員になってネット民を規制する法律を作るつもりなんだ!」

 ちなみに、今ここにいる人の中で、次の参議院選挙に高浜さんが立候補することを知ってる人は、高浜さん自身を除くと、日向隊員のみ。隊長から教えてもらってました。

 高浜さんは再び真土灯里を見て、

「しかし、君、よく覚えてたなあ、この曲」

「はい。ずーっとこの曲をギターで弾いてましたから、父は。でも、メロディがなかなか決まらなかったみたいで、何度も何度も作り直してました・・・」

「そっか。やっぱオレの書いた詞じゃ、メロディは思い浮かばなかったんだな・・・ 10日以上も音信不通にになったのはそのせいだったのか?・・・

 ちょうどBe Catのデビュープロジェクトの話が来たときだったから、オレはそっちに夢中になってるんだと思ってた。とんでもない濡れ衣だったな・・・ ふ、恥ずかしい・・・」

 ここで今度は真土灯里が声を発しました。

「あの・・・ 私、この曲、ボツにします」

 高浜さんがけげんな顔になって反応しました。

「ん、どうして?」

「だって、高浜さんが嫌がってる曲をレコーディングするなんて・・・」

「何を言ってんだ? これはオレと真土勝之あいつの和解にしないといけない曲だ」

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