私の居場所 183

 ここでハンドルを握る隊長が口を挟みました。

「話の途中で悪いが、ちょっといい話をするぞ。みんな、折り紙コンサートホールって知ってるか?」

 真土灯里と明石悠が応えます。

「はい!」「ええ、もちろん!」

 一方日向隊員は、

「え? そこって寒川さんと黒部さんがコンサートったところじゃ?・・・」

 と、心の中でつぶやきました。

 隊長。

「空いてたんだよ、そこ。明後日あさって!」

 真土灯里。

「ええ~? 明後日あさっては日曜日ですよ。空いてたんですか、ほんとに?」

 隊長。

「ああ、空いてた。君たちのために取っておいたよ」

 3人はびっくり。

「ええ~!?」

 隊長。

「中学校の体育館でやるつもりだったんだろ、コンサート? けど、校長からは断られた。じゃ、代わりはないかと探したらあったんだよ、折り紙コンサートホールが」

 真土灯里が質問。

「折り紙コンサートホールて大ホールと小ホールがありますよね? どっちを押さえたんですか?」

「大の方だよ」

「ええ? そこって会場使用料が高いじゃないですか? 私たち、クラス中のみんなをタダで招待するつもりなんですよ!?」

「な~に、金は全部日向に出費させればいいさ!」

 それを聞いて日向隊員はびっくり。

「ええ~!?」

 日向隊員は最近はミュージシャンとして活動してますが、本来の仕事はテレストリアルガード作戦部門の隊員。かなり特殊な職業です。それゆえ高額な給料をもらってます。

 けど、日向隊員は家(部屋)と食事は支給されてます。金は普段着を買うことくらいしか使ってません。金は溜まる一方なのです。隊長はそのお金を使う気のようです。

 真土灯里は苦笑して日向隊員に質問。

「大丈夫なの、日向さん?」

 日向隊員はそれ以上に苦笑。

「あは、大丈夫! 大丈夫!」

 明石悠。

「もう、ほんと私たち、日向さんにおんぶに抱っこだね」

 真土灯里が応えます。

「うん!」


 セダンが中学校に到着しました。昨日はここでたくさんの生徒に囲まれてしまいましたが、今日はまず教師と学校に雇われた警備員に囲まれました。生徒たちはその外側です。

 ドアが開き、日向隊員、明石悠、真土灯里がセダンを降りました。

「きゃーっ!」

 途端に地鳴りのような悲鳴。3人を警護してる先生や警備員たちはその圧力に耐えます。

「うぎゅ~!・・・」

 セダンから降りた日向隊員はそれを見て、苦笑い。

「あはは、すごいことになってる!」

 真土灯里もセダンから降り、つぶやきました。

「もう怖がることはない。大丈夫、大丈夫・・・」

 そして日向隊員に向け、はっきりと発言。

「これ、全部日向さんのお蔭ね!」

 明石悠も、

「うん、日向さんがいなかったら、私たち、こんな人気になってなかった!」

 日向隊員は顔を赤らめ、

「ええ~?・・・」

 真土灯里。

「日向さんがいなかったら、私、今でも八幡このみて名前で隅っこの方を歩いてたと思う。日向さんは私に勇気を与えてくれた!」

 明石悠。

「日向さんは私たちの恩人だよ! 私たちの居場所を作ってくれたもん!」

 日向隊員の顔はさらに赤くなりました。

「そんなあ・・・」

 日向隊員は思い出しました。金目ひなたと言われてた時代、山際怜子自殺事件を起こし、世間から袋叩きにあい、弟と父と母は死亡。自身も身体がバラバラになってしまったことを。そう、日向隊員もどん底から這い上がってここまできたのです。

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