私の居場所 180

 ちなみに、日向隊員は真夜中のノックのために1曲作らないといけないのですが、今はそれどころじゃないようです。


 一方こちらは真土灯里の部屋。真土灯里はギター弾きながら歌を歌ってます。I'm proud of you。

 と、突然てのひらを広げ、6弦をべたっと押さえ、ギターの音を止めました。

「ああ、やっぱそうだ・・・」

 実は真土灯里はI'm proud of youをサビの部分から歌ってました。そう、日向隊員のアドバイス通りに。

 日向隊員のこのアドバイスに真土灯里は、心証を害してしまいました。けど、そのアドバイスがいつまでも心に残り、冒頭にサビのあるヴァージョンとないヴァージョンを何度も、何度も歌い比べてました。

 結果、冒頭にサビがある方がずーっと聴きやすいと気づいてしまったのです。

 真土灯里は父親に幼いときからギターを習ってました。もちろんそれ以外の音楽理論も父親から習ってました。

 けど、その父親真土勝之は、独学でギターを覚えてました。だからギター以外の音楽理論には疎かったのです。

 一方日向隊員は、5歳からピアノ教室に通い始め、すぐに専属のピアノ教師に教わることになりました。もちろん音楽は、基礎から習ってました。

 ギターに関しては数倍真土灯里の方が日向隊員より上でしたが、音楽理論に関しては、日向隊員の方が数十倍上だったのです。


 ここで時間を巻き戻すことにしましょう。

 今は数時間前、まだ陽が明るい時間。田んぼや畑だらけの平らな土地。この中を通る片側1車線の道をアメリカ製の年代物のクルマが走ってます。

 運転してる人はこのクルマの持ち主、サングラスの男。助手席には老松啓一、後部座席にはモヒカンの男とリーゼントの男もいます。

 サングラスの男がつぶやきます。

「ほんとうにオレたち、見張られてるんですかあ?」

 啓一が応えます。

「ああ」

 ハンドルを握る男は、

「さっきから気にしてますけど、だれも見張ってませんよ?」

 モヒカンの男が応えます。

「別に地上から見張ってるとは限らんだろ?」

 リーゼントの男は上空を見上げ(このクルマはオープンカー)、

「人工衛星から見張ってるかもしれないぞ!」

 運転してる男は、心の中で苦笑い。

「あは、まさかあ・・・ ま、ここは啓一さんの好きなようにやらせてあげないと・・・」

 モヒカンの男とリーゼントの男の見立ては間違ってますが、上空から見張られてるという点は正解でした。

 そう、この3人の頭上にはドローンが飛んでるのです。いつもの透明、無音なドローンです。


 ここは暗闇、モニターだけが光り輝いてます。モニターには先ほどのアメリカ製のクルマが俯瞰で映ってます。それがサングラスに反射してます。黒部すみれといつも一緒にいる男性のサングラスです。男性はつぶやきます。

「こいつら、こんな郊外に来て、いったいどこに行く気なんだ?」

 この男性の横にいる黒部すみれも、疑念を持ってモニターを見てました。


 サングラスの男の愛車の行く先に低い山が見えてきました。平野の部分にぐっとせり出した山です。トンネルも見えてきました。


 暗闇の部屋のモニターにも、この山とトンネルが映し出されました。サングラスの男性が質問します。

「トンネルですねぇ。このまま追い駆けますか?」

「う~ん、このトンネル、スマホの電波が通じるといいんだけど?・・・」

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