私の居場所 128

 高浜さんは日向隊員の質問に応えます。

「ああ、思いっきりワンマンな人だったよ。灯里ちゃんの眼の前で言うのもなんだが、まあ、ここは本当のことを話そう。

 真夜中のノックは完全真土のワンマンバンドだった。オレを含め他の4人の意見は一切聞き入れてくれなかった。それでもアマチュア時代、それにプロになってからも、しばらくはうまく機能してた。

 けど、売れなくなり出すと、バンドがギスギスし始めた。真土はよりいっそう粗野になり、オレたち4人に何度か喰ってかかった。ある日ついに千石と代官と久領と衝突したんだ。

 そのときたまたま視察にきていたレコード会社の人が中に入ってくれて修羅場にはならなかったが、これをきっかけに真夜中のノックは真土とオレ、そして千石たち3人と、2派に分裂してしまったんだよ。

 たった5人しかいないバンドなのに、ひどい有様になってしまったんだよ。

 一応レコード会社との契約もあってアルバムは発表したが、オレと真土だけで録音した曲ばかりになってしまった。これじゃあなあ・・・

 さすがにレコード会社にも所属事務所にもあきれられたよ。契約はすぐに打ち切られてしまった・・・

 そうこうしてるうち、久領の約束の日が来た」

 日向隊員。

「2年経っても売れてなかったら、久領さんを実家に帰すという約束ですか?」

「ああ、そうだ。それをきっかけに千石と代官も辞めてしまったんだ。

 それなのにあいつら、真土が死んだからって、また上京して真夜中のノックを名乗ろうとしたんだ。だからオレはとっても気分が悪かった。

 でもなあ、やつらのライヴを次の日も見に行ったんだが、やつら、生き生きと演奏してたんだ。

 考えてみりゃ・・・」

 と、高浜さんはここで口をつぐみました。ほんとうは、

「真土はほんとわがままな男だった。オレもやり過ぎだと感じてた。真土が少しでもやつらの意見を聞いていれば、真夜中のノックは空中分解せずにすんだのに・・・」

 と言うつもりでしたが、真土灯里の前です。これはやめておきました。

 高浜さんの発言が再開しました。

「オレは千石たち3人を許す気になったが、やつらが真夜中のノックに参加したら、大事な真土イズムが破壊されるような気がしたんだ。真土イズムは真夜中のノックの看板だ。それだけは変えたくなかった。

 どうすれば真土イズムを継承することができる? 考えに考え抜いた末、導き出した応えが・・・」

 高浜さんは真土灯里を見て、

「灯里ちゃん、君の参加だ! 君がお父さんゆずりのギターを披露すれば、きっと真土イズムは継承されるはずだ! と考えたんだよ」

 真土灯里。

「それで私に声をかけた?」

「ああ。そしたら君が日向さんと明石さんの参加を希望した」

 それを聞いて日向隊員はまた苦笑いして思いました。

「だから、明石さんの参加を言い出したのは高浜あなただって」

 高浜さん。

「千石たち3人が参加するとなると、真夜中のノックの音楽はどうしても変わるはずだ。それは享受しないといけないとオレは判断した」

 高浜さんは日向隊員を見て、

「なら、君がやりたい音楽をレパートリーに入れてもいいような気がする。尾崎豊の曲をやりたいのなら、それもいいと思う」

 ああ、真夜中のノックでも尾崎豊の曲をることができる! 日向隊員は貌を赤らめ、高浜さんに深々と頭を下げました。

「ありがとうございます!」

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