私の居場所 62

 リーゼントの男は懐から小さな双眼鏡を取り出し、

「あの2人をじかに見れば、何があったのか、きっと思い出すはずだ!」

「ああ!」

 モヒカンの男も小さな双眼鏡を取り出しました。2人が双眼鏡を向けた先は2人の少女、日向隊員と明石悠。

「さーて、どんな顔してるんやら、あの2人?・・・」

 双眼鏡が日向隊員と明石悠の顔を捉えました。その瞬間、2人の頭部を何かが突き抜けて行きました。

「うっ!?」

 モヒカンの男は両手で頭を押さえ、うずくまりました。

「な、なんなんだよ、これは!?」

 リーゼントの男はのたうち回ってます。

「うおーっ、いってーっ! 頭が割れそうにいてーっ!」

 実はこの2人+啓一は公安7課に2つの催眠術をかけられてました。

 1つは明石悠と日向愛に関するすべての記憶の消去。隊長が予測した通りの催眠術です。

 もう1つは明石悠または日向愛の顔を見たら、その途端ひどい頭痛に襲われる。そう、たった今その2つ目の催眠術が発動したのです。

 モヒカンの男とリーゼントの男は歩道橋を這いずります。

「くそーっ、いったい何がどうなってんだよう?・・・」

 2人はなんとか階段を下り始めました。2人とも頭を抱えたままです。


 さて、群衆に囲まれてる日向隊員と明石悠ですが、今日も警官に化けた橋本隊員・倉見隊員・寒川隊員が警備することになってました。

 が、思った以上の群衆・・・ マスコミやネット民が大量に押し寄せてしまい、畑違いの3人には手に負えなくなってしまいました。そこで地元の警官が代わりに警備することになったのです。

 かなりの数の警官が2人をガードしてます。女の子2人のストリートライヴとは思えない異様な光景。ただ、これだけの警官がいないと2人は演奏できないのも確か。現にライヴが始まる前、話を聞かせろと大騒ぎしたネット民もいました。


 群衆の中、ギターを弾いてる日向隊員。この姿がふつーの家屋の中に設置されたパソコンのモニターに大映しになってます。どうやらネット民の誰かがストリーミング中継をやってるようです。

 日向隊員と明石悠の映像は、スマホでも見られてました。街角を歩く人、電車の座席に座ってる人、トイレの便器に坐ってる人・・・ もう日本中に2人の姿がばら撒かれてます。注目の的になってました。

 明石悠は1億円以上恐喝された上に毎日レイプされてました。それは日本中に知れ渡ってます。どう考えても生配信はよくないのですが、日向隊員の考えは逆。

 今明石悠の素性には価値がある。なら、これを利用してしまおう!

 唯一反対しそうな人物といえば明石悠の父親ですが、彼は例の事件が露見した次の日も、我がを通学させてました。そっちの問題もないはず。

 はたして日向隊員の考えは吉と出るか? 凶と出るか?


 ストリーミング中継を見てる人の中には、こんな人もいました。

 高級な調度品。どうやらお金のある家のようです。その中、机に座ってパソコンのモニターを見てる女の子がいます。顔を見ると、日向隊員や明石悠が通う中学校の生徒会長でした。彼女が見てるモニターにも日向隊員と明石悠が映ってました。

 生徒会長はマウスを操作しながらぽつり。

「ふっ、いい気なものね・・・」

 実は生徒会長の父親は県議会議員でしたが、緊急記者会見を開き、辞意を表明してました。まあ、愛娘が恐喝事件の調整役だったことがバレたら、どう考えたって公職を続けることはむり。辞任は当然です。

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