私の居場所 38
日向隊員。
「いい、今度は何も考えないで歌って。魂を込めることだけに集中して、歌に!」
明石悠は考え込みました。
「もう1回行くよ!」
と言うと、日向隊員はギターを弾く体勢に。明石悠はそれを見て、
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
が、日向隊員は委細構わずギターをかき鳴らし始めました。明石悠はそれを大声で止めます。
「ちょっと待ってってーっ!」
日向隊員ははっとしてギターを弾く手を止めました。明石悠はその日向隊員に、
「今度ははい!て言わなくていいから! 私の判断で歌うから!」
日向隊員は一瞬フリーズしましたが、にこっと笑って、
「ふふ、OK!」
日向隊員は再びギターをかき鳴らしました。今回は掛け声はなし。けど、明石悠はちゃんと歌い出しました。
明石悠は今度は無意識で歌うことを心掛けました。日向隊員はその歌声に感心してます。
「そうそう、その調子、その調子」
明石悠は歌い終えました。1つ前は自信があったのに日向隊員に否定されたので、今度はおそるおそる日向隊員に質問しました。
「ど、どうだった?」
日向隊員は笑顔で、
「最高だったよ!」
明石悠の顔はぱっと明るくなりました。
「あは」
ま、実のところ、日向隊員の判定では黒部すみれの半分にも満たない歌唱力でしたが、それでも日向隊員を満足させるものでした。
「今度は尾崎豊の曲を歌おっか」
と言うと、日向隊員はパソコンのマウスをクリック。プリンタが作動。1枚の紙が出てきました。日向隊員はその紙を持つと、明石悠にそれを渡しました。
「はい」
「これは?」
「僕が僕であるために、て曲の歌詞」
「尾崎なんとかて人の曲?」
「うん」
「へ~・・・」
明石悠はその歌詞を読みました。日向隊員はギターを構え、
「たぶん聴いたことないと思うから、とりあえず私が歌ってみるね」
日向隊員はギターを弾き始めました。アルペジオ(コードを1音1音分解して弾く奏法)・・・ いや、違います。イントロのメロディとコードを同時に弾いてるのです。まるで2本のギターを同時に弾いてるよう。それを聴いて明石悠はびっくり。
「ええ~?・・・」
ちなみに、このテクニック、日向隊員にギターを教えた寒川隊員にはできません。日向隊員のギターテクニックは、師匠の寒川隊員のそれをはるかに超えてました。
日向隊員は歌い始めました。頭には黒部すみれを思い浮かべてます。彼女の歌い方を極力まねようと思ってるのです。それでもそのヴォーカルは日向隊員を自己満足させるものではありませんでした。
けど、明石悠は感動してました。口は半開き。
「うわ・・・」
曲が終わりました。日向隊員は質問。
「どう?」
明石悠は歓喜します。
「すごいよ! なんか2人でギターを弾いてるみたいだった!」
それを聞いて日向隊員は呆れました。
「おいおい、注目するのはそこじゃないだろって・・・」
次に言葉を発します。
「あなたにも歌ってもらうからね!」
「ええ~?・・・」
と言っても、明石悠の知らない曲。日向隊員は1つ1つメロディを教えました。
「じゃ、歌おっか。さっきみたいに何も考えないで、魂を込めて歌ってね」
「はい」
日向隊員はギターを爪弾き始めました。歌いだす明石悠。そのヴォーカルを聴いて日向隊員は思いました。
「ふふ、十分籠ってるよ、魂が。あは、そっか! マリーゴールドよりこっちの曲の方が魂を込めやすいんだ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます