侵略者を撃つな! 117

 女神隊員はゴルフ場でユラン岡崎にレーザーガンを突き付けてるすみれ隊員を思い出しました。影像の端には女神隊員自身がいます。

「あなた、あのとき、私たちに歌を送ってくれたわよね、テレパシーで」

「尾崎豊の曲?」

「そうそう。それですみれさんは心を入れ替えて、仇討ちをあきらめた。あれをもう1回ここでやるの!」

「ええ・・・」

 日向隊員は一昨日のことを思い出しました。一昨日はストリートライヴをやってる寒川隊員にもっとオーディエンスが集まるようテレパシーで寒川隊員の歌声を四方八方に送ったのですが、だれも反応してくれませんでした。そのことで日向隊員はちょっと落ち込んでました。

 けど、一昨日は不特定多数の人にテレパシーを送るという行為でしたが、今はすみれ隊員1人にテレパシーを送るという行為。これはできるかもしれません。日向隊員は女神隊員を見て、うなずきました。

「やってみます!」

 日向隊員は眼をつぶり、ぶつぶつと唇を動かし始めました。


 ここはテレストリアルガード基地。地下にあるすみれ隊員の私室。私服のすみれ隊員はベッドに腰かけ、ぼーっとしてます。

 が、突然はっとします。

「え?」

 そして日向隊員の顔を思い浮かべます。

「ふ、あのったら・・・」

 そう、すみれ隊員は日向隊員のテレパシーをキャッチしたのです。それは尾崎豊の曲でした。日向隊員は唯一知ってる尾崎豊の曲を歌ってるのです。すみれ隊員はその歌声に合わせ、同じ曲を歌い始めました。

 僕が僕であるために すみれ隊員は最初つぶやくように歌ってましたが、歌ってるうちにすみれ隊員の表情が変わってきました。それはストリートライヴで歌ってるときと同じ顔。

 すみれ隊員の脳裏には、寒川隊員と路上で歌ってるときの楽しさ、面白さがよみがえってきました。歌声もいつの間にかシャウトに。

 すみれ隊員の心の中で響いてた日向隊員の歌が終わりました。すみれ隊員はニヤッとし、

「ふ、忘れてた。私のぎょうは歌を歌うことだったんだ・・・」

 すみれ隊員は立ち上がり、一本引きの自動ドアを開けました。


 コンサート会場の外観。夕刻になってきました。そろそろ寒川隊員のコンサートの開演の時間ですが、あたりは閑散としてます。

 そしてここは小コンサートホール。元々狭いコンサートホールですが、人はほとんど入ってません。2割くらいか。閑散としてる席の中に日向隊員と女神隊員の姿もあります。2人は引き続き私服。座ってる位置も昼間と同じ。

 向隊員がふとつぶやきました。

「人がほとんど入ってないや。やっぱこんなもんか・・・」


 ここは楽屋。寒川隊員がパイプイスに座ってます。背中を丸め、何かを祈ってるようです。いや、心の中で歌ってるのかも。ほかに人影はありません。

 ふと寒川隊員は顔を上げ、壁にかかった時計を見て、つぶやきました。

「時間だ」

 寒川隊員の眼は一瞬できつくなりました。

 寒川隊員は立ち上がり、ギターを手にしました。本当ならスタッフが「時間です」と呼びに来るのですが、寒川隊員にそんなスタッフを雇う金があるはずがありませんでした。

 寒川隊員はドアを開けました。が、そこにあったものを見てはっとしました。

「え?」

 なんとそこには、私服のすみれ隊員が立ってたのです。寒川隊員は思わずつぶやきました。

「す、すみれ?・・・」

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