侵略者を撃つな! 116

 隊長はベッドに腰かけてうつむいてるすみれ隊員を思い浮かべました。テレストリアルガード基地のすみれ隊員に与えられた部屋の中です。

「あいつ、自分の部屋に引き籠ったままなんだ。ずーっとな。

 実を言うと、すみれも作戦部門から離れる気らしい」

 日向隊員はびっくり。パフェに突き刺そうとした細長いスプーンを操る手を止めました。

「え?・・・」

「面接官にYesと言ったようだ」

 日向隊員はちょっと考え、

「ここにはもう興味がないの、すみれさんは? 寒川さんにも? 明後日のライヴは寒川さん1人だけ?」

「ああ、たぶんな」

 日向隊員は再び眼下の寒川隊員を見ました。彼を囲むオーディエンスの数はただのストリートミュージシャンとしては多い方ですが、明後日コンサートホールでコンサートをやると考えると、ちょっと心許こころもとない数です。日向隊員はぽつり。

「寒川さん、かわいそう・・・」

「じゃ、お前がオーディエンスを呼び寄せてみたらどうだ?」

「ええ?」

「テレパシーを使うんだよ」

 日向隊員は途端に笑みを浮かべ、

「あは、やってみます!」

 日向隊員は眼をつぶりました。その唇は小刻みに動いてます。どうやらテレパシーを四方八方に送ってるようです。これで人を呼び寄せるつもりのようです。

 が、なかなか人が寄ってきません。5分、10分・・・ 隊長は微笑みながら気長に待ちます。

 と、突然ボトッという音。日向隊員がはっとして眼を開けると、パフェに載ってたシャインマスカットの粒がテーブルに落ちてました。さらにもう1個シャインマスカットの粒がテーブルに落ちます。

「ええ~?」

 さらにパフェのアイスの部分が解けていて、器から流れ出ています。慌てる日向隊員。

「ああ~ もったいない!・・・」

 日向隊員は細長いスプーンをパフェに刺しました。そして口の中にパフェを運びました。ひたすら照れ笑いの日向隊員。

「あはは・・・」

 隊長はそれを見て、さらに寒川隊員の方向を見て、苦笑い。

「ふっ、オーディエンスは増えそうにないな。そこまでのスーパーガールじゃなかったようだな、君は」

「すみません・・・」

 日向隊員は口では謝罪してますが、その一方で口の中にパフェを次々とスプーンで運んでました。


 真昼間、晴天下のコンサート会場。その館内の小コンサートホール。舞台の上、私服(ステージ衣装)の寒川隊員とキャップを被った男性が打ち合わせしてます。舞台の脇では照明スタッフが照明器具を調整してます。

 観客席は無人。いや、中央で2人が座ってます。日向隊員とその1列後ろ、1つ横に女神隊員。2人とも私服。女神隊員はヘルメットを被らず、ウィッグで特徴的な単眼を隠してます。

 日向隊員は前を向いたまま、つぶやきました。

「上溝さん、ほかの部署に行っちゃうんですね・・・」

「ん、どうしたの?」

「私、上溝さんに嫌われてたんです・・・ 仲直りできたと思ったのに出て行っちゃうなんて、私、まだ嫌われてたのかなあ?・・・」

「上溝さんには上溝さんの理由があるんでしょ。たぶんあなたとは無関係じゃないのかな、その話は?」

「そうだといいんだけど・・・」

 舞台上の寒川隊員がアコースティックギターをかき鳴らしながら歌い始めました。寒川隊員はそれを見て、

「すみれさん、今日も来てくれなかったんだ。今日が本番だというのに、寒川さん、かわいそう・・・」

「じゃ、あなたがすみれさんを呼んでみたら?」

 日向隊員はそのセリフにびっくり。女神隊員に振り向き、

「ええ?」

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