侵略者を撃つな! 95

 隊長は寒川隊員を見て、

「あ、ちょっと待て。すみれはユラン岡崎のほんとうの顔をまだ知らないぞ。さっき素顔のユラン岡崎の写真を見せつけられたが、それがユラン岡崎とはまったく気づかなかった。その点は注意してくれよ」

「はい」

「それに、あまり刺激的なこと言うなよ」

「ええ、わかってますよ」

 寒川隊員は自動ドアを開け、出て行きました。


 ここはすみれ隊員の私室。すみれ隊員がベッドに腰かけてます。かなり落ち込んでる顔です。突然ドアが向こう側からノックされました。それを聞いてすみれ隊員は顔をあげました。

「だれ?」

 ドアの向こうから、

「オレだよ。寒川!」

 すみれ隊員は片手で小さなリモコンを手にし、そのボタンを押すと、片引きの自動ドアが開きました。そこにはギターを持った寒川隊員が立ってました。

「お邪魔するよ」

「ごめんなさい」

 寒川隊員はすみれ隊員と相対するようにイスに座りました。

「おい、おい、なんでいきなり謝罪するんだよ?

 おめでと。記憶が戻ったんだって?」

 すみれ隊員は応えません。寒川隊員は言葉を続けます。

「どんな事情があろうと、記憶が戻るって、素晴らしいことじゃないか」

 するとすみれ隊員はぶっきら棒に、

「父が殺された・・・」

 それは想定内の反応でしたが、実際言われてみるといろいろと悩む反応でもありました。

「そ、それはなあ・・・」

「私、父の仇を取りたい! 犯人はリンドブルム星人!」

「ああ、さっき隊長から聞いたよ。容疑者は5人いるんだって?」

「今からテレストリアルガードで捜査すれば、5人はどこにいるのか、誰が真犯人なのかわかるはず! 私、隊長に進言してみる!」

 寒川隊員は思いました。おいおい、その5人の中にオレたちの恩人、ユラン岡崎さんがいるんだぞ。見逃してくれないかなあ・・・ で、でも、言えないか、そんなこと・・・ 父親が殺されてるんだ・・・ 仕方がないか・・・

 寒川隊員はここはウソでごまかすことにしました。

「今朝早く5人は母星に帰ったよ」

「え?」

「あきらめるんだ」

 すみれ隊員は無言になってしまいました。寒川隊員はすみれ隊員と歌うつもりでギターを持ちこみましたが、ちょっとムリと判断しました。

「じゃ」

 というと、ギターを持って立ち上がり、自動ドアを開け、出て行きました。すみれ隊員はベッドに座ったまま。顔をみると釈然しゃくぜんとしてません。

 と、すみれ隊員ははっとしました。きほどの寒川隊員のセリフの中に疑問点を見つけたようです。

「あれ? 今朝早く5人は母星に帰ったと言ったよね、今? 日本にいるリンドブルム星人は7人だったはず?」

 いや、寒川隊員は「5人の容疑者は母星に帰ったよ」と言ったつもりでした。ちょっと言葉が足りなかったようです。

 すみれ隊員は寒川隊員を思い浮かべました。

「あの人、私にウソをついたっていうの!?・・・」


 それから何時間経ったでしょうか。今は真夜中を通り越し、未明。半月が山の稜線近くに見えます。

 ここはテレストリアルガードオペレーションルーム。上溝隊員がレーダースコープを凝視してます。と、レーダースコープに何か反応がありました。上溝隊員は無線のマイクを握ります。

「隊長、来ました!」


 ここはクレイン号コックピット。寒川隊員が操縦席、隊長が副操縦席に座ってます。隊長がコンソールに設置された無線機のマイクを握ってます。

「了解!」

 隊長は寒川隊員を見て、

「じゃ、行くか」

 寒川隊員は応えます。

「了解!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る