侵略者を撃つな! 92

 ここはファミレス。労働者風の男性=すみれの父親と清楚なお嬢様て感じのすみれが相対して座ってます。父親がぽつぽつとしゃべってます。

「ふ、まさかオレのが、こんな立派なレディに育ってたなんてな・・・」

「お父さん、なんで私たちの元から離れて行ったの?」

「事故を起こしちまったんだよ」

「ええ?」

「居眠り運転・・・ 歩行者をはねちまったんだ。お前のお母さんはむちゃくちゃ怒ったな。許してくれそうになかった。だから離婚した」

「そ、そんな・・・ そんなことでお母さんと離婚したの?」

「そんなこと? オレは無実な人を1人殺しちまったんだよ。お前のお母さんは立派な化粧品会社の社長だろ。そんな人の経歴にドロを塗っちまったんだよ。もう離婚するしかなかったんだよ。

 お前のお母さん、まだオレを許してないと思うぞ、たぶん。お前が今日オレと会ったことがバレたら、むちゃくちゃ怒るぞ、きっと」

「いいよ、そんなの。お母さんは私に、お父さんは交通事故で死んだと何度も何度も言ってたんだよ。あんなやつ、信用できないよ!」

「ふ、交通事故で死んだか・・・ 実際は交通事故で人を殺したというのが正解だが、言い得て妙だな。あはは・・・

 今日はたまたま家にいたが、今は山奥のダムの現場で働いてるんだ。次いつ帰ってくるのかわからない状況だ。ま、そんなわけだ、お前、オレを忘れてくれないか?」

 すみれはその言葉に唖然としました。

「え・・・」

「オレはお前の父親にはふさわしくない男だ」

 父親は伝票を取ると、立ち上がりました。

「これはオレが払っておく」

 父親はレジに向かいました。

「待って!」

 すみれは慌てて父親を追い駆けました。


 ファミレス外観。街の中にあるふつーのファミレス。今ドアが開き、父親が出てきました。そのすぐあとをすみれが続きます。

「待って、お父さん!」

 すみれは父親に喰らいつきます。

「次は、次はいつ会えるの?」

「おいおい、忘れろと言ったろ、オレのことは!」

「嫌だ、そんなの! 私、お父さんと一緒にいたい!」

「ムリだ。オレは本当に山奥の工事現場で働いてるんだ!」

「私もそこに行く! 給仕でもなんでもやる!」

 父親はすみれの服を見ました。どう見ても高校の制服です。

「お前、高校生だろ。高校生なら勉強しろ。勉強して立派な大人になれ!」

 すみれはちょっと考え、そして発言。

「私、毎日あのアパートに行く。お父さんが次に帰ってくるまで、毎日毎日あのアパートに行くよ!」

 そんなことしたら母親に確実にバレます。今日娘と会ったことは、あの女には絶対秘密にしておかないと・・・

「ふ、しょうがねーなあ・・・」

 父親はズボンの尻のポケットから免許証入れを取り出し、そこから1枚の名刺を取り出しました。

「こいつにオレの携帯の電話番号が書いてある」

 父親はそれをすみれに手渡しました。

「何かあったらここに電話してくれ」

 すみれはしばらくその名刺を見てましたが、すぐに我に返りました。そして自分のスマホを取り出し、

「あ、私の番号は・・・」

 父親はすみれが握ってるスマホを自分の大きな掌で覆い隠しました。

「ふ、いらないよ」

 父親は振り返り、

「じゃな」

 父親は行ってしまいました。

「お父さん・・・」

 すみれはそうつぶやくと、別の方向に歩き始めました。

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