侵略者を撃つな! 91

 サングラスの男性は引き分けの自動ドアを開け、出ていきました。隊長はそれを見届けると、すぐにモニターをつけました。モニターに映る先ほどのサングラスの男性。監視カメラの映像です。

 隊長はこのサングラスの男性が帰ると見せかけて、勝手に家探しし、寒川隊員を探索する可能性を考えてました。

 モニターの中、玄関を出て行くサングラスの男性。それを見ていた隊長の口からふ~とため息が漏れました。

「ふ、素直に出て行ったか・・・」

 ここで隊長の背後から声がかかりました。

「私、思い出しました。あの日何があったのかを!」

 隊長ははっとして振り返りました。そこにはすみれ隊員がいました。けど、何か変です。どうやら記憶を取り戻したようです。おまけに言葉が流暢りゅうちょうです。隊長は驚きました。

「すみれ、お前・・・」

 なお、あの日とは水素核融合弾が炸裂した日のことのようです。すみれ隊員は隊長に話を始めました。


 乳児だったころのすみれ隊員は、乳母のような家政婦に育てられてました。1人だけではありません。4人の女性が代わる代わる幼いすみれの面倒を見ていました。

 そのうちすみれは、人には父親と母親がいることを知りました。

「私のお母さんはだれ?」

 すみれのその疑問に女性の1人が応えました。

「私があなたのお母さんよ」

 なんと、家政婦だと思ってた人の1人が実の母親だったのです。

「お父さんは?」

「死んだ」

「ええ?」

「あなたが産まれたころ、交通事故で」

 幼いすみれはその言葉をそっくり信じました。


 それから十数年後、高校1年生になったすみれは、ひょんなことで自分の戸籍謄本を取ることになりました。初めて見る戸籍謄本。そこには父親の名前も記載されてました。父親の名前は豊原辰巳。ええ、辰巳? 実はすみれの知ってる父親の名は慎一。母親にそう教わってたのです。

 不審に思ったすみれは、父親の戸籍謄本も取ってみました。すると父親はまだ生きてました。それを見たとたん、すみれは猛烈に父親に会いたくなりました。その附票に記載された住所に自然に足が向いてました。


 父親の住居は年季の入った2階建てのアパートでした。震度4の地震でも倒れてしまいそうな古色蒼然なアパート。それを見たすみれは、愕然としてしまいました。自分は大金持ちの母親のお蔭で何1つ不自由なしに生きているというのに、父親はこんなところに住んでるなんて・・・

 すみれはここでちゅうちょしました。父親に会いたい。けど、怖い。なんで怖い? 実の父親でしょ。なんにも遠慮することないじゃん! けど、今日は平日。この時間家にいる大人の男性って、あまりいないんじゃ・・・

 そう判断すると、すみれはきびすを返しました。が、その瞬間、すみれの耳がドアを開ける音を捉えました。すみれははっとして振り返ると、1階のドアの1つが開いていて、そこから1人の中年の男性が出て来るところでした。男性は肉体労働をしてるようで、かなり腕っぷしが強そう。すみれは直感的に判断しました。この人は私の父親だ!

 男性はすみれとすれ違おうとしました。その瞬間、すみれは男性の顔を見て、声をかけました。

「お父さん!」

「え?」

 男性はびっくりしてすみれを見ました。すみれは言葉を続けます。

「すみれです!」

 男性はうろたえました。

「お、お前・・・」

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