侵略者を撃つな! 78
寒川隊員はすみれ隊員を思い浮かべました。
「本当はすみれと毎日毎日街角に立って、デビューコンサートの宣伝代わりのストリートライヴをやりたいところなんだ・・・ なのにあいつを改造手術に取られちゃって・・・ そのことで隊長とケンカしちゃってさ・・・
オレ、おかしいよなあ。隊長はオレが尾崎豊のファンだと重々承知してた。だからテレストリアルガードに籍をおきながら、すみれと一緒にプロデビューできるチャンスを与えてくれた。なのにその大事な隊長といがみ合っちゃって・・・」
日向隊員はこの発言を聞いて、1つの疑問が浮かびました。で、質問。
「あの~ 尾崎豊てなんですか?」
「あは、そっか。君の年齢じゃわからないか。オレなんかの年代じゃ、カリスマ的人気のあったアーティストだよ。
どう、聴いてみる、尾崎豊の曲を?」
日向隊員はとりあえず肯定することにしました。
「あ、はい」
ニヤッとする寒川隊員。
「じゃ、行くよ!」
寒川隊員はギターをジャーンと鳴らすと、歌い始めました。
寒川隊員はいつもテレストリアルガードの仲間に自分の曲を聴いてもらいたいと思ってました。なのに誰も聴いてくれません。突然現れた新入りが自分の曲を聴いてくれると言ったので、とってもうれしい気分になってました。
しかし、日向隊員の心の中は逆でした。寒川隊員は自分の世界に完全に入り込んでしまったのです。おまけに、全然知らない曲。これは聴かなかった方がよかったかも・・・ 日向隊員は口をぽか~んと開けてしまいました。
でも、寒川隊員はずーっとずーっとつきあっていかなければならない相手です。ここは最後まで聴かないといけません。
ジャーン。寒川隊員は最後の1音を弾き終えました。やっと終わった。日向隊員は心の中で安堵しました。が、
「じゃ、もう1曲」
と言うと、寒川隊員はギターを鳴らし、2曲目を歌い始めてしまいました。日向隊員はまたもや唖然。
けど、2曲目を聴いてるうち、日向隊員は不思議な感情が湧いてきました。この曲の主人公て、もしかして自分なんじゃ?
さらに最後のハーフ部分の歌詞。勝ち続けなきゃならない。このフレーズに何か違和感を覚えました。別に1回くらい負けてもいいじゃん・・・
寒川隊員は最後の1音を爪弾きました。日向隊員は間髪入れずに質問です。
「あ、あの・・・」
「ん、何?」
「なんで勝ち続けなくっちゃならないんですか? たまには負けてもいいんじゃないですか? 勝ち続けるって大変ですよ」
寒川隊員は急に笑顔になりました。今自分が歌った歌に興味を持ってくれたからです。
「あは、君もそう思うか? 実は自分もこの曲を初めて聴いたとき、そう感じたんだ。でも、その答はすぐにみつかったよ。
この曲の主人公は、別に誰かと闘ってるわけじゃないんだ。自分と闘ってるんだよ」
「自分と?」
「そう。自分に負けたら自分の人生は終わってしまう。そう解釈すれば、この曲の意味をすべて理解できるよ。自分に負けない強い心を持ちたい。尾崎豊はきっとそういう気持ちでこの曲を書いたんだよ」
日向隊員は考え込みました。そして寒川隊員を見て、
「すみません。今の曲、もう1回聴かせてください」
寒川隊員からしたら、それは思ってもみなかった発言。ああ、この
「ああ、いいよ」
そう言うと、寒川隊員はジャーンとギターを鳴らし、またこの曲を頭から歌い始めました。
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