侵略者を撃つな! 77

 日向隊員は苦笑いするしかありません。

「あはは・・・」


 さて、勉強するようにと言われた日向隊員ですが、勉強しろと言われて素直に勉強する小学生はめったにいません。日向隊員は自分に与えられた部屋を出て、地下の廊下を歩き始めました。

 科学のすいがちりばめられたテレストリアルガードの基地には、きっと何かものすごいものがあるはず。日向隊員は眼を輝かせて歩いて行きます。

 と、突然ギターの音とそれに合わせた歌声が聴こえてきました。シャウトに近い男性の歌声です。日向隊員は一昨日のサブオペレーションルームの出来事を思い出しました。ギターケースを抱えた男性。あれはたしか寒川さん。

 日向隊員は音が漏れてくるドアのノブに手を掛け、そのドアを開けました。


 そこは小会議室。テレストリアルガードの隊員服を着た寒川隊員がパイプイスに座ってギターを爪弾きながら歌を歌ってました。と、寒川隊員はふと何かに気づき、ギターを止めました。

「ん?」

 寒川隊員が振り向くと、そこには入室してきたばかりの日向隊員が立ってました。

「君は?」

「わ、私、今度テレストリアルガードの隊員になった日向愛です!」

「あ~ 一昨日の」

 一昨日上溝隊員・倉見隊員・寒川隊員とあいさつに失敗してた日向隊員は、今があいさつのチャンスと、右手をさっと差し出しました。

「よ、よろしくお願いします!」

 寒川隊員はその右手に握手。

「ああ、よろしく」

 やっとあいさつできた。日向隊員は安堵の顔を見せました。けど、せっかくです。このまま会話を続けてみたい。そんなわけで、ちょっと質問してみました。

「あ、あの~ なんで朝から熱唱してるんですか?」

「ああ、今度折り紙コンサートホールでデビューライヴをやるんだ。その練習だよ」

「デビューライヴ? すっごーい! 寒川さんて歌手なんだ!」

「あは、あくまでも軸足はテレストリアルガードの隊員だよ。歌手は副業。それに自分はギター担当。歌うのはすみれだ」

「え?」

 すみれ・・・ その名を聞いて日向隊員は、夢の中で聞いた海老名隊員の発言を思い出しました。

「香川隊長にはもう1人女がいるんだ。黒部すみれて女。

 実を言うとね、数年後にまた宇宙人が攻めて来るんだ。テレストリアルガードはその宇宙人を迎え撃つ。すみれも最前線に連れていかれるんだけど、あいつ、な~んの役にも立たないんだ。香川隊長はそのすみれを助けようとして戦死してしまうんだ」

 日向隊員は思いました。

「すみれって、あのとき海老名さんが言ってた人のこと?」

 そして言葉に出して質問。

「あの~ すみれさんは今どこにいるんですか?」

「ふっ」

 寒川隊員は視線をはずしました。

「改造手術中だ、メガヒューマノイドの」

「え?」

 日向隊員はまたもや海老名隊員の言葉を思い出しました。

「すみれはまだメガヒューマノイドになってないんだ。メガヒューマノイドなんかにならなきゃ、最前線に連れて行かれることはないはず。だからメガヒューマノイド改造手術を妨害するっていう手もあるんだ」

 そして思いました。

「妨害て・・・ もう手遅れじゃん」

 今度は寒川隊員の質問。

「君もメガヒューマノイドなんだろ」

「あ、はい」

「大変だよ、メガヒューマノイドは。宇宙人がまた攻めてきたら、真っ先に最前線に立たなくっちゃいけないから」

「あは、私はメガヒューマノイドにならないと死んでしまうほどひどいケガを負ったから、仕方がなかったんですよ」

「ふ、そっか。ま、すみれもそうだったんだけどね」

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