侵略者を撃つな! 66

「うるさい!」

 と言うと、母親は思いっきり平手を振り上げました。次の瞬間、その張り手が金目ひなたの左ほおにヒット。金目ひなたの身体は無残にもソファに転がりました。さらに母親は金目ひなたの襟首を掴み、そのまま身体を吊るし上げました。

「お前がいけないんだよ! お前が! 陽一が死んだのも、全部お前のせいだ! お前より陽一の方がずーっとずーっとできがよかったんだよ! お前が死ねばよかったんだよ!」

「お母さん、やめて・・・」

 と金目ひなたは言おうとしましたが、絞めあげられてるせいで声が出ません。金目ひなたはふと父親を見ました。父親は平然とした顔をしてグラスの水割りを呑んでました。それは金目ひなたにとってとてもショックな光景でした。

 母親はときたま激昂することがあり、今まで何度か往復ビンタを喰らったことがあります。そんなときは必ず父親が止め、父親がいないときは、あとで必ず慰めてくれました。なのに今の父親は、自分にまったく関心がないのです。

 金目ひなたは思いました。私はもう父親にも母親にも愛されてない。1人ぼっちになったんだ・・・

 母親が突き放すように手を離しました。金目ひなたの身体は床に転がりました。そのままゲボゲボと咳き込みます。

 母親は父親を見て、

「私、もう嫌! こんな飛行機には絶体乗らないから!」

「好きにすればいいさ。けど、お前の顔は日本国中に知れ渡ってんぞ。いいのか? どこに行ってもマスコミがまとわりつくぞ」

 母親はドアに向かって歩き始めてましたが、その言葉を聞いて、はっとして歩みを止めました。そして再び父親の顔を見て、

「ふ、わかった。途中まではつきあってあげるよ!」

 と、ここでドアが開き、1人の女性職員が顔を出しました。

「飛行機の用意ができました」

 父親が応えます。

「わかった」

 父親は立ち上がりました。


 空港に駐機してる旅客機。ボーディングブリッジが2本横付けされてます。空は完全に青くなってます。

 ここはその機内。かなりゆったりとした席。これが横1列に6つ並んでます。奥行きは10列くらい。実はここはビジネスクラス。

 今後部の自動ドアが開き、金目家の3人が入室しました。席は6割くらい埋まってます。通路を歩く3人。それを見てすでに着席してた客が騒めきます。

「おい、あれ、金目ひなたじゃないのか?」

「あんなと一緒なの? 嫌・・・」

「快適じゃない空の旅にならなきゃいいが・・・」

 父親が真ん中の席に座り、そして金目ひなたを見ました。

「ここに座れ」

 金目ひなたは父親の隣りに座りました。母親はその金目ひなたと通路を挟んだ隣りの席に座りました。

 実は3人はファーストクラスの席を手配しようとしましたが、こんな日に限ってファーストクラスは満席。それでビジネスクラスを選んだようです。

 今度はこの通路に人相の悪い20代前半の男3人組が入ってきました。3人はそれぞれ左右キョロキョロしながら通路を進みます。と、1人が金目ひなたの顔を見て、はっとします。そして残り2人の顔を見て、

「お~い、いたぞ!」

 3人はゴープロとそれにつながったノートパソコンを用意。金目ひなたはそれを見て不安になります。父親が3人をにらみ、

「なんだ、お前らは?」

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