侵略者を撃つな! 17
ユランはギターケースを開けると、そこからギターを取り出しました。そしてすみれ隊員を見て、
「OH MY LITTLE GIRL、歌えるかな?」
OH MY LITTLE GIRLとは尾崎豊の代表曲の1つ。その質問に寒川隊員が応えました。
「ええ、路上で何度も歌ってるから大丈夫です。
あ、けど、いつもは自分のギターで歌ってるから、ユランさんのギターだと・・・」
「いや、何度も歌ってるのなら大丈夫だろう」
ユランはギターを弾く体勢に。
「じゃ、行くよ」
ユランはギターをジャラーンと鳴らしました。するとすみれ隊員は無意識に歌い始めました。それを聴いてユランは驚きました。そしてギターを弾きながら思いました。
「なんてすごい歌唱力だ。本当に脳に障害があるのか? いや、脳に障害があるからこそ、このヴォーカルなのかも?・・・」
すみれ隊員が歌い終わりました。ユランは寒川隊員を見ました。
「こいつぁ、本当にすごいなあ・・・」
「どうです。実は今度、もっと大きなコンサートホールでライヴやろうと思うんです。ユランさんもそのライヴに一緒に出て欲しいんですよ!」
「いや、前にも話したが、私はいつリントブルムに帰るのかわからない状況なんだ。実は今、リントブルムの隣国のタラスクにビザ申請を出してるところなんだ。タラスクにはリントブルムからたくさんの難民が来てる。その人たちを救済しようと思ってるんだ」
寒川隊員は残念そう。
「そうですか・・・」
「セッションは今日が最後だな、たぶん」
「最初で最後ですか・・・ じゃ、全力でやりましょう!」
「うん、わかった!」
ライヴスタート。ユラン岡崎と寒川隊員がギターをかき鳴らし、すみれ隊員が熱唱します。うぉーっ! フルハウスの観客はいつも以上に熱狂しました。
ライヴ終了後、楽屋に戻ったユラン岡崎と寒川隊員は固く握手しました。寒川隊員のあいさつ。
「どうもありがとうごさいました」
「こちらこそ」
「リントブルムやタラスクに行っても、絶対死なないでくださいよ」
「ふ、わかってるよ」
「あ、そうだ!」
寒川隊員はテーブルの上に小さなメモ用紙を置き、
「ちょっと待ってて・・・」
と言いながら、その紙に文字を書き入れました。そしてそれをユランに手渡しました。
「これ、オレのスマホの電話番号とメールのアドレスです。何かあったらここに連絡してください」
「わかった」
ユランはギターケースを持って、あらためて寒川隊員を見ました。
「じゃ」
ユランは次にすみれ隊員を見ました。
「君も」
けど、すみれ隊員は顔色を変えません。ユランは思わず苦笑い。
「あは・・・
じゃあな」
と言うと、ユランはドアを開け、出て行きました。寒川隊員はぽつりと言いました。
「ほんとうに、ほんとうに死なないでくださいよ」
ここはライヴハウスの裏口。表口は繁華街からちょっと離れてる位置にありますが、それでもある程度の明るさがあります。それに対し裏口は路地に面してるせいか、かなり暗いようです。
今ドアが開き、ギターケースを持ったユラン岡崎が出てきました。すると出待ちしてた女の子2人がスケッチブック(サイン帖)をユランに差し出しました。
「すみませ~ん、ユランさん、サインくだ~い!」
するとユランはそのスケッチブックを持ち、
「ああ、いいよ」
ユランはスケッチブックにサインを始めました。
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