侵略者を撃つな! 15
今風の居酒屋の席、寒川隊員とユラン岡崎の会話が続いてます。
「オレはメインヴォーカル兼ギタリストになって、毎日のように尾崎豊の曲を熱唱しました。オーディエンスは徐々に増えていきましたよ。3月には地元のライヴハウスを満員にするまで成長してましたよ。
でも、4月になって進級したら、事態は変わってました。2人が卒業で抜け、その代わり中里てやつが入ってきたんです。そいつは父親の影響でクイーンやレッドツェッペリンの曲が得意なギタリストでした。
そいつは1年てことで尾崎豊て方向性に文句は言わなかったけど、ライヴハウスでは毎回毎回物すごいギターテクニックを披露してました。それがレコード会社のプロデューサーの眼に止まって、話は一気にプロデビューの方向に傾いていったんです。高校に在籍したままプロデビューできる。みんな、舞い上がってたっけな・・・
けど、そのプロデューサーは1つ条件を出してきたんですよ」
「中里を前面に出せ、と?」
「ええ。プロデューサーが曲を聴かせて欲しいと言ったら、やつはすぐに自作の曲を披露しましたよ。オレたちが聴いたことのない曲ばかりでした」
「クイーンやレッドツェッペリンのような曲を?」
「ええ。やつはオレたちが知らないところで曲を作ってたんです。その曲を聴いてプロデューサーはポンとひざを叩いたっけな。この曲だ、と・・・
けど、オレは反対しました。オレがやりたい曲とはあまりにもかけ離れてたんです。でも、プロジェクトは走り出してました。オレはバンドを辞めるしかありませんでした。結局バンドは3人でデビューすることになりました。
オレはひどい脱力感に襲われました。とても高校に行ける気分じゃありませんでした。どこかみんなの知らない街に行って歌を歌いたい気分になって、ギターを持って電車に乗り込んだんです。
でも、電車に乗ってるとき、空襲警報が鳴り響きました」
「ユミル星人の攻撃?」
「ええ。自分はなんともなかったけど・・・ 東京に落ちるはずだった水素核融合弾が、迎撃ミサイルが中途半端に当たったせいで進路がずれ、オレが住んでた町に落ちてきたんです」
「もしかして君がいたバンドは、それで?」
寒川隊員はうなずいて、再びしゃべり始めました。
「みんな、きれいさっぱり蒸発しちゃいました。オレの高校も、オレが生まれ育った町も、オレの家も・・・」
「両親は?」
「両親も、お姉ちゃんも、妹も、家族全員・・・ オレは高校をサボったせいで、なぜか救われてしまった・・・」
「そっか・・・」
と言うと、ユラン岡崎は黙ってしまいました。何か罪を感じてるようです。漂う重たい空気。これはマズい。寒川隊員は慌てて発言しました。
「あは、すみません。しみったれた話をしちまって」
それに対しユランは、何か返事をしたようです。唇が動きました。でも、声が聞こえてきません。かなりショックを受けてるようです。完全に気まずくなってしまいました。ともかくこの雰囲気を替えないと、と思った寒川隊員は、話題を変えました。
「ユランさん。今度一緒にセッションしませんか?」
ユランは今度はちゃんと応えることができました。
「ああ。自分は毎月1回セブンスカーペットでライヴさせてもらってる。次は来月16日だ。そんとき」
「OK! その前に練習しません?」
「いや~ すまないなあ。オレもいろいろと忙しくってね・・・」
「そうですか。じゃ、来月16日、ぶっつけ本番で」
「ふふ、わかった」
2人の呑み会はこれでお開きとなりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます