第10章 侵略者を撃つな!

侵略者を撃つな! 1

 ここは都会の場末のさらにそこから少し離れた場所。クルマがすれ違えるかどうかってほどの狭いみち。片側はコンクリートで固められた壁。反対側はやはりコンクリート製の堤。さらにその向こう側は、ドブのような川が流れてます。どうやらこのみちは歩行者&自転車専用のようです。

 あたりはすでに夜。街灯がぽつぽつとついてますが、あまりきいてないようで、かなり暗いみちです。

 今ここを2つの人影が並んで歩いてます。両方とも成人男性のようですが、暗くって衣服などはわかりません。1人は自転車を押してます。もう1人は徒歩。こちらはかなり大柄のようです。

 自転車を押してる男性の声が漏れてきました。

「いや~ 懐かしいなあ。まだ生きてたんだあ」

 大柄な男性が応えました。

「ええ、まあ・・・」

「どうだ。元気にやってるのか?」

「ええ、元気にやってますよ」

 2人の眼の前に陸橋オーバーパスが見えてきました。上は線路です。大柄の男性がわざと歩を緩めたらしく、自転車を押してる男性が少し前に出ました。自転車を押してる男性の質問が続いてます。

「今何をやってんだ?」

「あ、アルバイトです」

「アルバイト? は~ やっぱこの世界じゃ、定職はムリか・・・」

 2人は陸橋オーバーパスの下に入りました。上の線路では電車のヘッドライトが近づいてきました。

 大柄の男性が道路の脇を見ました。そこにはコンクリートブロックが落ちてました。

 自転車の男性が前を向いたまま何かを発言しました。が、ここで電車が差しかかりました。騒音で何を言ってるのかぜんぜんわかりません。

 と、大柄の男性がいきなりコンクリートブロックを両手で掴みました。けど、自転車を押してる男性はそれに気づいてません。

 走る電車から漏れてくる光。ほんの一瞬その光に照らし出された大柄の男性の顔は、鬼の形相でした。

 大柄の男性は自転車を押してる男性の頭を後方からコンクリートブロックで思いっきり殴りました。自転車ごと倒れる男性。大柄の男性はさらに男性の顔面をコンクリートブロックでガンガン殴ります。1発・2発・3発・・・

 上の線路を走ってる電車が完全に通り過ぎました。コンクリートブロックを握っていた大柄の男性の息はかなり荒くなってます。倒れてる男性はピクリとも動きません。

 大柄の男性は手にしてたコンクリートブロックをドブ川へ無造作に放り投げました。ドボーン! コンクリートブロックはドブ川に沈みました。

 大柄の男性は一目散に駆け出しました。


 ここは郊外の駅前の広場。深夜近くですが、意外と人通りがあります。

「ワン・ツー・スリー」

 とカウントを取って、私服の寒川隊員がジャーンとギターを豪快に鳴らしました。ワンテンポ置いてその隣にいた私服のすみれ隊員が歌い始めました。その歌声を聴いて、歩道を歩く若者たちが一斉に足を止めました。

「な、なに、この歌?」

「すげーっ!」

 寒川隊員とすみれ隊員はあっという間に若者に取り囲まれました。みんなうっとりと曲を聴いてます。

 女の子3人組がこの曲を聴きながら会話を始めました。

「この曲、なんだっけ?」

 その隣の女の子。

「え~と、う~んと昔見たドラマの・・・」

 さらに隣の女の子。

「尾崎豊の僕が僕であるために じゃないかな?」

 真ん中の女の子。

「ああ、そうそう、それそれ!」

 最初の女の子。

「けど、すごいなあ。シャウトしてるけど、怒鳴ってない・・・ 本当に心で歌ってる・・・」

 この光景をちょっと離れたところから見てる男性がいます。私服姿の隊長です。隊長はかなりうれしそう。笑顔です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る