君のテレストリアルガード 48

 その発言に寒川隊員が反応しました。

「ええ、それって?」

「メガヒューマノイド改造手術を途中で放棄したんだよ。そのせいで黒部すみれの身体は今手術の途中でほったらかしになってる。

 一応チームを組んでる医師団によって健康は保たれてるが、身体の内部に仕込んでおいた人工心肺などの人工臓器は、はずしたままになってる。当然ベッドから動けない状態だ。寝た切りてやつだな。

 今日本で黒部すみれの身体を造り換えたり、現状に戻したりすることができる技術者は彼らだけだ。彼らがその気を見せなきゃ、黒部すみれの身体はずーっと宙ぶらりんのままだ。へたすりゃ、一生寝た切りだな」

 愕然とする寒川隊員。

「そ、そんなあ・・・」

 寒川隊員はすみれ隊員と歌手としてプロデビューすることが夢。このままだとそれは霧散してしまいます。これは気になります。

 寒川隊員は隊長を見ました。憎しみを帯びた眼です。この人があんな暴力を働かなきゃ・・・

 隊長はその視線に気づきました。このままだと隊長は寒川隊員に嫌われてしまいます。隊長が思いっ切って大島さんに質問しました。

「そいつらに会わせてくれないか? オレが説得する」

 大島さん。

「ふふ、ご冗談を。テレストリアルガードは部門ごとに完全分離してる。個々の隊員や技術者が部門を乗り越え会うことは原則禁止になってる。それはあんただって知ってんだろ?

 もちろん、ある程度の地位に就いてる人同士なら会うことができる。技術開発部門で言えば主幹だな。だが、当の下島はあんたのせいで今入院中だ。だいたいあの事件のあとだ。あんたに会う気なんて、さらさらないんじゃないか?」

 今度は寒川隊員が質問。

「入院中なら代理とかは?」

 大島さんはむげに応えます。

「いない」

 寒川隊員は悔しそう。

「ああ・・・」

 そのストレートな返答に寒川隊員は落胆しました。今度は隊長の質問。

「あんたさっき、下島は辞めると言ってなかったか?」

 大島さん。

「ああ、言ったよ。けど、正式な辞表はまだ出ていないな。正式な辞表が出ても、退任は規定により1ケ月後だ」

 ちなみに、技術開発部門では正式な辞表が出た場合、すぐに次の主幹が指名されます。また、入院などなんらかの理由で主幹が欠けた場合は、すぐに代行が指名されます。つまり今の大島さんの発言は大ウソ。どうやら大島さんは隊長に嫌がらせするためにわざわざここに来たようです。

 大島さんは振り返り、

「さーて、今日はこれで帰るとするか!」

 と、嫌みたらしく発言。隊長は言い返します。

「おや、もうお帰りですか? お茶でも」

「ふふ、今更茶を出すっていうのか? オレもバカにされたものだな」

 と言うと、大島さんは引き分けの自動ドアを開け、出て行きました。閉まる自動ドア。

 寒川隊員は困ったという顔で隊長を見ました。

「隊長・・・」

 隊長も寒川隊員を見ました。

「寒川、すまん・・・」

 隊長は寒川隊員に頭を深々と下げました。隊長が一般隊員に頭を下げる。これはよほどのことです。けど、寒川隊員は憤まんやるかたない表情を見せました。この人にはもうついていけない・・・

 寒川隊員の脚は自然に自動ドアに向かいました。そしてそのまま自動ドアを開け、出ていきました。

 隊長はそれを見送ると、大きくため息をつきました。そしてドカッとイスに座りました。もう何も考えたくない雰囲気です。それを橋本隊員、上溝隊員、女神隊員が遠巻きに見てました。

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