君のテレストリアルガード 45

「土屋さん!」

 再び突然の声。今度は男性の声です。土屋議員ははっとして我にかえりました。土屋議員はその声がした方向に顔を傾けると、そこには大島さんがいました。大島さんは土屋議員に手を差し伸べます。

「さあ!」

 大島さんは土屋議員の右手を両手で握り、秘書の巨体から身体を引き抜こうとします。思いっきり力を入れる大島さん。

「うぐーっ!」

 土屋議員の身体が秘書の巨体から抜け出ました。

「抜けたーっ!」

 土屋議員は大島さんの顔を見て、

「あ、あ、あの女の子はどこに行った?」

 驚く大島さん。

「ええ、女の子?」

 大島さんは赤い女の子が立っていた位置を指さし、

「赤いフードを被った女の子だよ、ここに立ってた!」

「えええ? いや、そんな女の子、見てませんよ」

 それを聞いて土屋議員は怒鳴りました。

「バカ言うな! 今ここにいたろ!」

 大島さんは同じ口調で言い返します。

「だから、そんな子は見てませんって!」

 茫然とする土屋議員。

「そ、そんなバカな・・・」

 と、ここで土屋議員は赤い女の子のセリフを思い出しました。

「あなたには子どもが3人いますね。その3人がどうなっても知りませんよ」

 土屋議員は焦ります。

「ま、まさか・・・」

 土屋議員は慌ててスマホを取り出し、画面を見ました。が、圏外の文字が。

「ち、この建物はスマホの電波を遮断する機能があったんだっけ?」

 土屋議員がキョロキョロ。と、固定電話に眼が留まりました。土屋議員はその電話に飛びつき、受話器を持って、番号をプッシュ。

「あ、お前か?」

 電話の向こうから女性の怒号が。

「あなた、いったい何やってんの? ぜんぜん電話に出なくって!」


 ここは路上、走るタクシーの中。その後部座席には1人の女性が座ってスマホの電話に出てます。女性は土屋議員の妻。かなり焦ってるようです。

「浩造も浩治もいつきもみんな高熱を出して倒れちゃったのよーっ!」

 驚く土屋議員。

「ええーっ!」

 どうやら浩造・浩治・いつきは土屋議員の3人の子どもの名前のようです。

「みんな、救急車で病院に行ったって。私も今その病院にタクシーで向かってるところなんだけど、3人とも別々の病院に入院したから、どの病院に行けばいいのか全然わからなくって・・・ とりあえず浩造の病院に行こうと・・・

 あ、あなた、あなた! 聞いてんの!?」

「ええ?・・・ あ、ああ、聞いてんよ」

「お救急車の人の話だと、食中毒の可能性があるって!」

 それを聞いた途端、土屋議員の脳裏には、強烈な否定が生まれました。いや、違う! 土屋議員は先ほどの赤い女の子のセリフを再び思い浮かべました。

「あなたには子どもが3人いますね。その3人がどうなっても知りませんよ」

 そして土屋議員は愕然としました。どうみてもこれはあの赤い女の子の呪い・・・

 受話器から妻の声が続きます。

「あなたは浩治かいつきの病院に行って! 早く! お願い!」

 受話器から電話が切れる音。けど、土屋議員は動く気配がまったくありません。受話器を握ったまま茫然としてます。大島さんはその土屋議員をけげんな顔で見てました。


 翌日すでに夕闇が迫る時間。郊外の街道を1台のアッパーミドルクラスのクルマが走ってます。

 その車内、運転してるのは大島さん。彼以外の乗員はいません。大島さんの表情はいつものそれとは違います。怒ってるようです。

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