君のテレストリアルガード 32
隊長は倒れてる海老名隊員に恐る恐る歩み寄りました。
「え、えびちゃん・・・」
隊長は海老名隊員の顔をのぞき込みました。見開いた眼。その瞳孔は開いたまま、まったく生気がありません。隊長は泣き叫びました。
「うぉーっ!」
繁華街を走る救急車。その車内。深刻な顔で海老名隊員を見つめる隊長。ベッドに横たわってる海老名隊員の眼は、今は閉じてます。身体は微動だにしません。隊長はつぶやきます。
「えびちゃん・・・」
隊長は心電図を見ました。
「心臓はなんの問題もなく動いてる」
隊長は再び海老名隊員の顔を見ました。
「血の気も十分ある!
こいつの頭蓋骨はチタン合金になってるんだ。たとえ金属バットで殴られても、なんの問題もないはず。大丈夫、きっと大丈夫・・・」
ここは病院内の廊下。突っ立ってる隊長・橋本隊員・上溝隊員・寒川隊員・女神隊員。その中の隊長に医師が宣告します。
「残念ながら、脳死状態です」
それはあまりにも残酷な宣告でした。隊長の脳裏にわずかに残ってた希望。それはシャボン玉のように儚く散りました。
隊長はその場に崩れ落ちました。放心状態。口は半開き。眼はうつろ。まるで死んだような眼です。
この宣告はヘルメットを被ってる女神隊員にも大きな衝撃を与えました。
富士山麓の草原にワラビを摘みに行った日。テレストリアルガード基地に侵入した女エイリアンをレーザーガンと消火器で追い込んだ日。田村佐恵子籠城事件のとき、バイクに2人乗りして現場に急行した日・・・ これらの記憶が走馬灯のように女神隊員の脳裏を通り過ぎて行きました。
橋本隊員・上溝隊員・寒川隊員もかなり深刻な顔になってます。上溝隊員は打ちひしがれた隊長を心配し、隊長に一歩踏み出しました。
「隊長・・・」
その上溝隊員の肩を叩く手。上溝隊員がはっとして振り向くと、それは橋本隊員の手でした。橋本隊員は首を横に振りました。否定の意思表示です。上溝隊員は動きを止めました。
海老名隊員は6年前の戦争で水素核融合弾の爆風を全身に浴び、瀕死の状態で発見されました。香川隊長はその海老名隊員にずーっとずーっとずーっと寄り添ってきました。まるで隊長の娘。
海老名隊員は隊長が求めるままメガヒューマノイドになりました。史上最強の少女になったのです。それがいとも簡単に死んでしまったのです。隊長の悲しみは計り知れません。
しかし、なんで海老名隊員は死んでしまったのでしょうか? 海老名隊員の頭蓋骨は丸ごとチタン合金に置換されてます。理論的には頭に衝撃をくわえても、よほどの力でない限り、死ぬことはありません。このチタン合金の頭蓋骨になんらかの瑕疵があったとしか言いようがないのです。
そんなことを考えてるうち、隊長の悲しみは怒りに変換されてきました。そんなときです。廊下の奥からジャケット姿の大島さんと白衣姿の下島さんが駆けてきました。
「香川さん!」
隊長は振り返り、駆けて来る2人、特に下島さんを見ました。いや、にらんだと言った方がいいか? かなり厳しい目つきです。
「これはいったいどういうことなんだ!?」
下島さんは息を切らしながら応えます。
「いや~ 私もまったくわからないんですよ・・・」
「ふざけんなーっ!」
次の瞬間、隊長は思いっきり下島さんの顔面を殴りました。吹き飛ぶ下島さんの身体。そのまま下島さんの身体は廊下を転がります。びっくりする大島さん。
「え、ええ?・・・」
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