君のテレストリアルガード 12
ポロロ~ン。寒川隊員は最後の音を爪弾きました。その顔は満面の笑みです。
「ふふ、どう?」
「私も歌いたい」
それはすみれ隊員がテレストリアルガード基地に来て初めて発する言葉でした。寒川隊員は、
「ああ、いいよ、もちろん!」
と返事。
「じゃ行くよ!」
寒川隊員はストロークでギターを弾き始めました。すみれ隊員が歌い始めます。それを聴いて寒川隊員は驚きました。
「な、なんだよ、これ? す、すごい・・・」
すみれ隊員は大脳の障害で感情が希薄です。なのにものすごく歌に魂がこもってました。いや、この場合は歌と言うよりシャウト。寒川隊員はこれだけ魂を込めて歌ってくれると、楽しくって楽しくってしょうがありません。ギターの音が自然に軽やかになります。
寒川隊員は思いました。
「こいつはものすごいヴォーカリストを発見したかも・・・」
翌日、隊長は病院を訪ねました。海老名隊員のお見舞いです。隊長が病室に入ると、小さな女性看護師さんがベッドの上に寝かされてる海老名隊員の身体の向きを変えてるところでした。看護師さんの発言。
「んしょ、んしょ。え~と、こんなものかな?」
海老名隊員はちょっと苦笑い。
「あはは・・・」
と、海老名隊員は隊長に気づきました。
「あれ、隊長、来てたんですか?」
「ああ」
「あは、恥ずかしいところを見られちゃった・・・」
隊長は立ったまま海老名隊員を観察しました。海老名隊員は両手両脚がありません。義手と義足は取りはずされてるようです。隊長は身近にあったイスに座りながら質問しました。
「床ずれか?」
「はい。ときどき向きを変えてもらうんです」
看護師さんは、
「じゃ、私はこれで」
と言って、ドアを開け、出て行きました。閉まるドア。隊長はなぜかそのドアをずーっと見てます。海老名隊員はそれが気になったようです。
「あれ、隊長、どうしたんですか?」
隊長は我に返りました。
「ん? あ、いや・・・ あの看護師さんの声。まどかにそっくりだった・・・」
まどかとは隊長の娘さんのこと。6年前の戦争で水素核融合弾の業火に消えました。
しかしです。隊長の娘さんは5歳で死んでます。今の看護師さんは少な目に見ても30歳。いくらなんでも年が違いすぎます。それを娘の声にそっくりだったなんて・・・
海老名隊員は心の中で笑いました。が、すぐにその考えをあらためました。隊長は今でも娘さんのことを忘れられないでいる。そのせいでう~んと年上の看護師さんの声を娘さんの声と混同してしまった。誰かが隊長の娘さんの代わりにならないと。それはやっぱ私・・・
海老名隊員がそんなことを考えてると、隊長が口を開きました。
「大変だな。両手両脚を同時にはずされてしまったなんて」
海老名隊員が応えました。
「あはは、手術は明日からだというのに、もうはずされちゃったんですよ。まったく、テレビのチャンネルも変えられないって・・・」
「ふふ、そっか。お前も大変だな。
あ、そういやお前、脚の長さを5cm伸ばして、胸の大きさをBカップにして欲しいと文章で申し出たんだって?」
「あは、胸の方は却下されました」
「そりゃそうだろ。君は1年に1回胸を開いて人工心肺を点検しないといけないんだ。胸は膨らませてはくれないだろって」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます