赤ン坊殺しの英雄 23(終了)

 消え消えの意識の中で田村佐恵子は独り言をつぶやきました。

「あは、強いや、テレストリアルガードはやっぱ・・・ ああ、悔しいなあ・・・」

 田村佐恵子は赤ちゃんを抱いてるかつての自分を思い浮かべました。赤ちゃんは笑ってます。

「ごめん。ママ、弱かった・・・」

 田村佐恵子の眼から一筋の涙がこぼれ落ちました。


 海老名隊員と、隊長と寒川隊員がレーザーガンを構えながら駆けます。行く先は田村佐恵子の横たわる身体。距離的に隊長の組の方が先に到着しそうです。なお、倉見隊員は橋本隊員の手当てをしてました。

 駆ける海老名隊員。と、突然海老名隊員の前に不思議な光景が現れました。田村佐恵子の身体が大爆発してるのです。これは予知の映像? 海老名隊員ははっとし、叫びました。

「隊長、行っちゃダメーっ!」

 はっとして立ち止まる隊長と寒川隊員。

「ええ?」

 海老名隊員はさらに叫びます。

「そいつ、自爆するよ!」

 けど、隊長と寒川隊員と、田村佐恵子の間には3mくらいしか距離がありません。田村佐恵子がぽつりと言いました。

「みんな、死んじゃえ」

 ドバーン! 田村佐恵子の身体が大爆発しました。隊長と寒川隊員はこの大爆発を高いところから俯瞰してます。むむ、2人は地面にいたはず。なんで俯瞰してるのでしょうか? 隊長自身も寒川隊員も不思議に思ってます。

「ええ?・・・」

 隊長は今手にしてる手摺のようなものが巨大な指だと気づき、はっとしました。隊長は振り返り、真上を見ました。そこには巨大なヘルメットが。それは女神隊員のヘルメットでした。なんと巨大化してた女神隊員が土壇場で隊長と寒川隊員を両掌ですくい上げたのです。

 隊長はふっと笑って言いました。

「ありがとう!」

 女神隊員は応えました。

「いえいえ、どういたしまして」

 女神隊員は身を屈め、隊長と寒川隊員を優しく地上に降ろしました。

 海老名隊員は佇んでました。彼女の前には小さなクレーターのような窪みがあります。たった今田村佐恵子が自爆した場所です。その横に隊長が来ました。

「あ~あ、自爆しちまったな。どこで改造されのか訊きたかったのに」

 海老名隊員はその言葉に何1つ反応しません。そのまま黙って振り返り、歩いて行ってしまいました。隊長はそれを静かに見送りました。


 海老名隊員はずーっとイライラしてました。この夜海老名隊員はサブオペレーションルームに来ませんでした。心配になった上溝隊員がお弁当を持って海老名隊員の部屋に行こうとしましたが、隊長の「やめとけ!」の一言でそれを断念しました。

 隊長は海老名隊員のわがままに怒ってるようです。このままだと隊長と海老名隊員の間に溝ができてしまいます。

 けど、隊長と海老名隊員は親子のような関係です。2人の間の関係が壊れることは絶対ありません。


 翌日2人と女神隊員は、隊長の私用のクルマに乗ってました。運転してるのは隊長。助手席には海老名隊員。後部座席には女神隊員が座ってます。3人とも私服姿でした。

 海老名隊員はまだイライラしてるようです。隊長を見ようとしません。隊長は横目でそれを確認しました。と、隊長が発言しました。

「そういや、今度カーナビのソフトを変えたんだ。今度のカーナビは尾崎○香がしゃべるぞ」

 それを聞いたととたん、海老名隊員の顔は驚きと笑顔に変わりました。

「ええ、ホント、ホント?」

 隊長はカーナビのスイッチを押しました。するとカーナビがしゃべり始めました。

「みんな、おはよう!」

 それを聞いて海老名隊員は歓喜です。

「うわっ、ほんとうだ! サ○○ルちゃんの声だ!」

 カーナビの声。

「次の交差点を左に曲がって欲しいなあ!」

 隊長がそれに応えます。

「わかった」

 クルマは無難に左折。するとカーナビが歓喜の声をあげました。

「すっごーい!」

 これに続けて、隊長と海老名隊員がカーナビとご唱和。

「きみはドライブが得意なフレンズなんだね!」

 唱和できたことにびっくりしたのか、隊長と海老名隊員がお互い顔を見合わせました。そして大爆笑。女神隊員は苦笑するしかありませんでした。

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