赤ン坊殺しの英雄 18

 プレハブ小屋の中、ドアがバーンと開き、お母さんが突入してきました。先ほどのカメラクルーはまだ小屋の中にいて、カメラがさっとお母さんを捉えました。お母さんは叫びました。

「みなとーっ!」

 するとみなとちゃんは立ち上がり、叫びました。

「お母さん!」

 みなとちゃんはお母さんに向かって駆け出しました。

「お母さーん!」

 田村佐恵子は横目でそのみなとちゃんをにらみました。そしてみなとちゃんの行く先に左掌を出しました。掌はみなとちゃんの顔面を捉え、みなとちゃんはラリアットを喰らったようにまともに卒倒しました。それを見てお母さんが叫びました。

「みなとーっ!

 お願い、その子を返して!」

 田村佐恵子は不気味に笑い、

「あんた、何言ってんのよ。嫌だね!」

 するとお母さんは涙ながらに訴えました。

「私の夫は去年亡くなりました。その子は私の唯一の希望なんです。だからお願いです、娘を返してください!」


 このお母さんの顔がテレビ画面にどアップに。車中の橋本さんがワンセグテレビに釘付けになってます。

 再びプレハブ小屋。田村佐恵子の顔色が急に変わりました。何か考えてるようです。そしてぽつり。

「わかった。連れてっていいよ」

 お母さんの顔はパッと明るくなりました。

「あ、ありがとうございます!」


 プレハブ小屋外観。今ドアが開き、みなとちゃんを抱いたお母さんが飛び出てきました。女性リポーターの声。

「あ、今女性が出てきました。女の子を抱いてます。どうやら1人解放に成功したようです!」


 スマホでテレビを見ている車中の隊長。

「おいおい、1人解放しちまったよ」

 橋本隊員が応えました。

「田村佐恵子のダンナは赤ちゃんが産まれる寸前、建築現場で事故死したと聞いたな。その母親と似た境遇だったんだ」

 隊長はその発言に反応しました。

「そっか。ふふ、あの女にもまだ人間の血が流れていたか・・・」

 と、ワンセグモードになってた隊長のスマホが鳴りました。電話です。隊長はその電話に出ました。

「もしもし・・・ え? あ~ ありがとう」

 隊長は電話を切りました。そして、

「橋本」

 その隊長の呼びかけに、橋本隊員はビクンとしました。隊長は言葉を続けました。

「須賀至と長瀞瑞樹の近況がわかったぞ。須賀至は今北海道にいるらしい」

「北海道?」

「ああ、自らの意志で会社を辞めて北海道に移住したらしい。今は酪農家をやってるそうだ」

「酪農?・・・ もう1人は?」

「自殺したそうだ?」

「え?」

 橋本隊員はちょっと考え、

「原因は? やっぱ田村佐恵子?・・・」

「さあな、それは推量するしかないな」

 その隊長の言葉を聞いて、橋本隊員は黙ってしまいました。何か考えてるようです。


 一方こちらは女神隊員が運転するバイク。女神隊員の背中には海老名隊員が掴まってます。つまり2人乗り状態。海老名隊員はテレストリアルガードの隊員服に着替え、ヘルメットも被ってます。

 海老名隊員が女神隊員に声をかけました。

「あの~ 女神さん、レーザーガン貸してくれません?」

 レーザーガンはテレストリアルガードの隊員にとって、もっとも身近で重要な武器。海老名隊員は希望を言ってみただけ、まさか貸すことはないだろうと思ってました。が、

「いいですよ」

 と女神隊員はあっさりOKしました。海老名隊員はびっくり。

「ええ、いいんですか?」

「あは、私には生体エネルギーがありますから。この前田村佐恵子と闘ったとき・・・」

「え、田村佐恵子って?」

「あ、今回の犯人ですよ」

「へ~ あの女、そんな名前だったんだ」

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