赤ン坊殺しの英雄 17
低速で進むクルマの背後を追い駆けるように、250CCのバイクを押して進むライダーが現れました。ふつーのバイクスーツにふつーのフルフェイスのヘルメットを被ってるライダーです。マスコミの何人かはその姿に気づきましたが、今はテレストリアルガードのクルマの方に興味があるらしく、すぐに眼を離してしまいました。
テレストリアルガードの車両がやっと街道に出ました。
その車内、隊長が運転してる寒川隊員に命令しました。
「よし、サイレンを鳴らせ!」
「了解!」
車両はパトロールランプを出し、サイレンを鳴らしました。それに先導されるようにマスコミのバイクやクルマが追い駆けます。たくさんの数の車両です。その中に先ほどのライダーのバイクもありました。
テレストリアルガードのクルマが最初の交差点を直進。続くマスコミのバイクや四輪車も直進。けど、1台だけ右折するバイクが。先ほどの250CCのバイクです。ハンドルを握りながらそれをバックミラーで確認してる寒川隊員。
「隊長、無事右折しました!」
助手席の隊長がニヤッとしました。
「ふふ、そっか」
中学校の正門。授業中なのか、閑散としています。今校内から1人の制服姿の少女が駆けてきました。海老名隊員です。
「海老名さん、早退ですか?」
はっとする海老名隊員。その声を発したのは先ほどのライダーでした。ライダーは250CCのバイクに跨ったままバイクを停止させてます。
ライダーがフルフェイスのヘルメットのシールドをあげました。するとそこには巨大な単眼が。これだけでこの人物は女神隊員だと断定できます。海老名隊員は笑いました。いや、苦笑かも。
「あは、女神さん、どうしたんですか?」
女神隊員はシールドを降ろし、
「隊長が、海老名さんが現場に行くはずだから、迎えに行けって」
海老名隊員は今度は明確に苦笑しました。
「あはは。隊長に見透かされてたか」
女神隊員は海老名隊員に紙袋を渡しました。
「はい」
「え?」
海老名隊員は紙袋の中を覗き見しました。その中身はテレストリアルガードの隊員服とヘルメットでした。女神隊員。
「さあ、早く着替えて」
「はい」
信号は赤信号。テレストリアルガードの車両はパトロールランプを廻してる上にサイレンを鳴らしてます。つまり緊急車両状態。当然赤信号でも最優先で通行できます。でも、この車両を追跡してるマスコミのバイクやクルマはただの民間車両。緊急車両ではありません。なのに平気で赤信号を無視しました。
テレストリアルガード専用車車内。ハンドルを握ってる寒川隊員がバックミラーを見て、
「あいつら、また信号無視しやがった」
それに応える隊長。
「あとで警察に大目玉喰らうだろ。ほっとけ」
隊長の右手にはスマホがあります。今画面はワンセグテレビになっていて、誘拐・籠城事件の現地映像を映してます。現地に動きはないようです。
「あの女、オレたちが到着するまで、動く気ないな・・・」
後部座席には備え付けのワンセグテレビがあり、橋本隊員と倉見隊員が見てます。と、橋本隊員が何かに気づきました。
「ん?」
テレビの中、突然全速力で走る女性が映し出されました。さきほどみなとちゃんを幼稚園バスに乗せたお母さんです。女性リポーターの声が。
「あ、今女性が1人規制線を突破しました! 誘拐犯が立て籠もるプレハブ小屋に向かうようです!」
そのお母さんがプレハブ小屋のドアのノブを握りました。
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