魔法少女にはまだ早い 11

 香川さんは少女に手を差し伸べました。

「さあ、オレの手を握って」

「はい」

 少女はうなずき、その手を取りました。そしてゆっくりベッドを降り、床に立ちました。

「あは、立てた」

 少女は仮の脚とは言え、立ち上がるのは4ケ月ぶりでした。それだけでも感動ものです。

 少女は香川さんの手に助けられ、数歩歩きました。あまりのスムースさに香川さんはびっくり。

「な、なんだ? ふつーに歩けるじゃんか・・・」

 少女は香川さんの顔を見て、

「もういいですよ」

「そっか」

 香川さんは手を離しました。すると少女の歩くスピードは上がり、壁に到達。少女は思わず感嘆の声をあげました。

「す、すごーい!」

 大神さんが少女に声をかけました。

「気に入ってくれたか」

「はい!」

 なお、少女、香川さん、大神さん以外、この病室に人はいません。どうやら大神さんが人払いしてたようです。少女の身体は日本の最高機密。看ることができる医師、看護師は限られてましたが、今日は特に大事な日なので、細心の注意を払ったようです。

 少女は壁に手を添えながら壁に沿って歩きました。とてもスムースな歩きです。たった今義足を取りつけたなんて信じられないくらいのスムースさです。

 少女は大神さんを見て、

「もっと歩きたい」

「じゃ、廊下を歩いてみるか?」

「えっ、いいんですか?」

「ふ、今いるフロアはテレストリアルガード専用のフロアなんだ。大災害でも起きない限り、他の病人や医者が入ってこないんだよ」

 香川さんがドアを開け、少女を見ました。

「さあ」

「うん!」


 少女は廊下に出ました。他の病人や医者がいないせいか、かなり殺風景な廊下です。少女は最初は手摺を頼って歩いてましたが、すぐに手を離して歩けるようになりました。あまりのスムースさに少女自身も驚いて、感嘆な声をあげました。

「あは」

 少女の眼の前に階段が見えてきました。少女は大神さんを見て、

「あの~ 階段は?」

「ああ、いいよ。ただし、下に行っちゃダメだぞ」

 どうやらここより下の階は、一般の病室のようです。

 少女は階段を昇り始めました。やはり最初は手摺を頼ってましたが、すぐに手を離しました。

 少女は階段の上の極小のフロアに到着しました。そこにはドアがありました。少女はドアノブを見ると、それに手を掛けました。


 ここは屋上です。ペントハウスのドアが開き、少女が姿をあらわしました。外は明るい青空。抜けるような空です。久しぶりに直に見た青空に、少女はまたもや感嘆な声をあげました。

「ふわーっ!」

 が、

「おっと!」

 という声とともに、ドアノブを握る少女の小さくって無骨な手の上に、二周り大きな手が被さりました。その手によってドアは閉められてしまいました。その手は大神さんの手でした。

「残念だが、ここまでだ。今の君の身体は、国家の最高機密。あまり人には見せたくないんだ」

「す、すみません・・・」

「さあ、今度は階段を降りてごらん」

「はい」

 少女は階段を降り始めました。昇ってきたときと同じ、なんら不自然のない動作です。階段は昇るときよりくだるときの方が難しいはず。義足を取りつけてまだ15分も経ってないのに・・・ 香川さんは驚くばかりでした。

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