私が愛した男《ひと》 12
ここは海老名隊員の私室。海老名医院はパジャマに着替えてベッドの中にいます。眠れないのか、眼はぱっちしと開いてます。海老名隊員はいろいろと考えてるようです。
「呪い石・・・ 私もあの石、使えるのかなあ?・・・」
海老名隊員は寝返りを打ち、
「でも、なんでこんなに生理痛がひどいんだろ? 今までこんなにひどくなったことはなかったよなあ・・・」
そんな海老名隊員でしたが、いつの間にか熟睡してました。
翌朝7時、ここはテレストリアルガードの建物の玄関前、今私服の隊長がタクシーに乗り込んだところです。海老名隊員と女神隊員がそれを側で見送ってます。2人ともテレストリアルガードの隊員服を着てます。女神隊員はいつものようにフルフェイスのヘルメットをかぶってます。隊長が2人に振り返り、
「じゃ、行ってくるぞ」
「はい!」
2人が応えました。隊長は海老名隊員を見て、
「お前、学校休むんだから、今日は部屋でじーっとしてろよ」
海老名隊員は苦笑しました。
「あはは、わかってますよ」
タクシーが走り始めました。そしていつものようにパパラッチが群がるゲートを通って、街道に出て行きました。
さて、海老名隊員は黙って自室で寝てるのかと思いきや、サブオペレーションルームでノートパソコンでインターネットをやってました。案の定の困ったちゃんです。
女神隊員はオペレーションルームのコンソールの前で、昨日と同じようにバイクの教則本を読んでました。
海老名隊員はノートパソコンのディスプレイに集中してると思いきや、突然女神隊員に話しかけました。
「女神さん」
女神隊員はその声を聞いて、ピクンとしました。海老名隊員は言葉を続けました。
「ほんとうに隊長に跨る気ですか?」
「ごめんなさい。あれは冗談・・・」
「私は隊長に命を助けてもらったことがあります。だから私は隊長が死ねと言えばいつでも死ねます。あの呪い石だって使えます!
女神さんは隊長のために死ねる覚悟があるんですか?」
突然の大胆な質問です。それに対し女神隊員は、初めて地球にやってきたときのことを思い出しました。
あのときの女神隊員は橋本隊員と倉見隊員が操縦するヘロン号に徹底的に痛めつけられ、死ぬ寸前まで追い詰められました。隊長はその間に割って入り、自分を助けてくれました。
そればかりか、宇宙人だというのに、テレストリアルガード入隊を勧め、反対した橋本隊員を一時的にクビにしました。もしあのとき隊長の配慮がなければ、女神隊員はいったいどうなってたことか? 女神隊員にとって隊長は命の恩人なのです。
女神隊員はぽつりと応えました。
「私も隊長のためなら、死ねます」
「ほんとですか?」
「私も隊長がいなかったら死んでました。隊長には感謝しきれません」
海老名隊員はそれには応えませんでした。あえて無視してるのか、ただひたすらインターネットに興じてました。女神隊員はその行動に腹だたしさを覚えましたが、そんな気分はすぐに忘れてしまいました。
お昼近くになりました。ここはテレストリアルガード基地の門。パパラッチが群がってるゲートの前に1台のワンボックス車が現れました。その横腹には猫猫弁当の文字があります。どう見てもお弁当屋さんのクルマなんですが、パパラッチはワンボックス車がゲートをくぐるとき、ご丁寧に車内をストロボ撮影しまくってました。
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