私が愛した男《ひと》 4
女神隊員の嗚咽はさらにひどくなりました。号泣と言っていいほど。隊長も本来ならこのアニメに賛辞を送りたい気分なんですが、女神隊員が後ろで号泣しているもので、そんな気分になれなくなってしまいました。ただ唖然とするばかり。
それからしばらくして、引き分けの自動ドアが開き、巨大な箱を持ったいつものお弁当屋さんが入ってきました。
「ちわーす、猫猫弁当でーす!」
お弁当屋さんは巨大な箱からお弁当箱を2つ取り出し、それを卵型のテーブルの上に置きました。違う色の弁当箱です。
「いつもの弁当と減塩弁当です」
女神隊員はハンコを持って、お弁当屋さんが用意した書類に押印。
「お疲れ様」
お弁当屋さんは再び自動ドアを開け、出て行きました。
「それじゃまた!」
女神隊員は弁当箱を隊長の前に置きました。
「はい、お弁当です」
隊長は浮かない顔。自分の席に座った女神隊員を見て、
「あのなあ、上溝がいないときくらい、ふつーのお弁当にしてくれないか? この弁当、まるで砂を噛むような味なんだぞ」
「そんなことしたら、私が上溝さんに怒られてしまいますよ」
と、そのとき引き分けの自動ドアが再び開きました。女神隊員が見ると、そこには海老名隊員が立ってました。
「ただいま・・・」
いつもの海老名隊員ならサブオペレーションルームに入ってくるときは隊員服に着替えてるのですが、今は中学校の制服を着たまま。顔は青ざめてます。
「す、すみません。ちょっと休ませてください」
海老名隊員は部屋に入らずに、自動ドアを閉めてしまいました。女神隊員はそれを見て、
「あれ、海老名さん? お昼なのにもう帰ってきたの?」
それに隊長が応えました。
「ほっといてやれ」
「でも・・・」
「見ててわからんのか? あれは生理痛の顔だろ」
「生理痛? 3年に1回しか来ない生理が今日来たんですか?」
「はぁ?」
地球人からみたらあまにも突拍子もない質問に隊長はびっくり。
「あんたの星じゃ、3年に1回しか生理が来ないのか?」
「あ、はい・・・ で、でも、排卵したらいても立ってもいられなくなって、その~・・・」
「男と?・・・」
「あ、はい・・・」
フルフェイスのヘルメットのせいで今の女神隊員はどんな顔をしてるのか不明ですが、声色からしてかなり赤くなってるようです。
隊長は女神隊員の言葉にさらなる疑問が浮かび、再び質問しました。
「あんた、もしかして子どもがいるのか?」
「はい・・・」
女神隊員はぽつりと応えました。それを聞いて隊長は唖然としてしまいました。
女神隊員をテレストリアルガードに入隊させるとき、テレストリアルガードはいろいろと彼女を尋問しました。当然隊長もそこに同席してました。そのとき「結婚はしてるのか?」という質問がありました。答えはNo。そこからテレストリアルガードは、女神隊員には子どもはいないと勝手に判断してしまったのです。
実際のところ女神隊員の母星では、男女とも結婚する確率は3割程度ですが、女性が出産する確率は9割を越えてました。つまり、未婚の母は当たり前のようにいるのです。
隊長は質問を再開しました。
「何人いるんだ、子どもは?」
「2人です」
「2人とも母星に残してきたのか?」
「いいえ。私が脱出用の宇宙船の船長に任命されたとき、私の権限で2人とも宇宙船に乗せました」
隊長はまたもや唖然としてしまいました。女神隊員が操縦してきた宇宙船は、テレストリアルガード宇宙支部にあたるスペースステーションJ1が撃墜してしまい、女神隊員以外の乗員は全滅してしまったからです。つまり女神隊員の2人の子どもは、そのとき死んでしまったのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます