前方の敵後方の敵 8

 橋本隊員が言い返します。

「そりゃこっちのセリフだ。なんでJ1は未確認飛行物体の地球侵入を見過ごした? こっちだって大迷惑だ!」

 番田隊員が激しく反応します。

「その文句はエイリアンに言え! J1はスペースの都合で四次元レーダーの性能がそんなに高くないんだ。相手が認識ステルス機能を持っていたら、こっちはお手上げなんだよ」

「ふっ、なんだよ、そりゃ。そんなものが言い訳になると思ってんのか?」

 番田隊員は喰ってかかりました。

「なんだとーっ!」

 それを入谷隊長が片手で押さえました。

「おい、ここはテレストリアルガード基地の本部だぞ。落ち着け!」

 入谷隊長は香川隊長を見て、

「この件はお互いこれ以上触れない方がいいようだな」

 香川隊長の質問です。

「で、もう1つの用件は?」

 再び入谷隊長が応えました。

「女神隊員に会いたい」

「あは、なんで?」

「オレたちゃ今、ひどい誤解を受けてるんだ。それを彼女に解いてもらいたいんだ」

 香川隊長はちょっと苦笑して、

「おいおい、何をどう誤解されてるていうんだ?」

「4か月前、オレたちJ1は1隻の宇宙船を攻撃した。結果的にその船は難民船で、5000もの難民が瞬時に亡くなってしまった。それ以来、われわれはネットで誹謗中傷されるようになったんだ」

 ここで橋本隊員が口を挟みました。

「そりゃ誹謗中傷と言うより、非難と言った方がいいんじゃないか?」

 それに宮山隊員が激高しました。

「ふざけんな! オレたちゃマニュアル通り攻撃しただけだ!」

 入谷隊長は右手でその宮山隊員を押さえました。

「だから、落ち着けと言ってんだろ!」

 入谷隊長は再び香川隊長を見て、話を続けました。

「1か月前、その宇宙難民の写真がネットに流出した。その顔があまりにも異質で、一時期われわれへの誹謗中傷は消えたが、ここにきてまた誹謗中傷が増えてきたんだ。われわれはこの誹謗中傷を終わらせたいんだ!」

「う~ん・・・ 言いたいことがぜんぜんわからんなあ・・・ それと女神隊員とどういう関係があるんだ?」

 宮山隊員が再び喰ってかかりました。

「ふざけんな!」

 さらに番田隊員が、

「ちゃんと報告書に、女神はあのときの唯一の生き残りだって書いてあるじゃないか!」

 香川隊長は上溝隊員を見て、

「ん? そんなこと書いてあったのか?」

「はい」

 香川隊長は右手で額を押さえ、真上を見ました。

「あちゃ~ そっかあ・・・ そうだったかあ~・・・」

 入谷隊長。

「ふっ、こいつはお笑いだ。自分の書いた報告書の内容を忘れてたとは・・・ さあ、女神隊員に会わせてくれ!」

「会ってどうする?」

「会って謝罪する」

「会って謝罪?・・・」

 香川隊長はちょっと考えました。と、突然右手で拳を作って、左手の掌の中心をポーンと叩きました。

「あは、そうか! 大量虐殺の唯一の生き残りの女神隊員に頭を下げて、その場面をカメラに収めて公開して、世間様に赦してもらおうという寸法かぁ!

 でもなあ、女神隊員はお前らが侵入を許したエイリアンに延髄を傷つけられてなあ、今強い薬で寝かされてるところだ。今会うのはちょっとムリだな」

 もちろんこれはうそです。女神隊員のけがは、軽傷より軽いものでした。でも、これを聞いて入谷隊長は悔しい顔を見せました。

「ちっ」

 宮山隊員と番田隊員も苦虫をかみ潰したような顔になりました。香川隊長はそれを見て、

「ん、なんだなんだ、お前ら? まるで女神隊員が延髄に大けがしたことを知ってるみたいじゃないか。まだ公式発表もしてないのに」

 と言って、笑いました。J1の3人はさらに気まずくなりました。

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