女神の一番長い日 11

 ベテランの隊員はついにブチ切れてしまいました。そしてそのままドアに向かいました。本当に出て行くつもりです。それを見てヘロン号の若手隊員が慌てました。

「は、橋本さん、本当に辞める気なんですか?」

 しかし、「橋本さん」は無言のままドアに向かってます。その顔は怒りで真っ赤になってます。ヘロン号の若手隊員はさらに慌てました。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」

 「橋本さん」はドアを開けると、吐き捨てました。

「ケッ! やってられるか、こんなとこっ!」

 ドアが激しく閉まりました。思いっきり力を込めてバーンと閉めたのです。

 今度はたった今「橋本さん」と言ってた隊員が、隊長に喰ってかかりました。

「隊長、いったい何を考えてるんですか? 橋本さんはうちのエースですよ! 射撃は百発百中だし、ヘロン号のコントロールはすごいし! 今こんな人はほかにいませんよ!」

 そして1つ眼の宇宙人を横目で見て、

「隊長はこのエイリアンと橋本さんと、どっちが大切なんですか?」

「両方とも大事だ。ま、去る者は追わずだ。今はそこにいる宇宙人の方が大事だな」

 バーン! 若手隊員はテーブルを思いっきり叩きました。

「ふざけんなよーっ!」

 ストーク号の若手隊員はその勢いに身を縮めてしまいました。そしてちょっとの静寂。それを切り裂くように、隊長は静かにしゃべりました。

「お前も辞めるか?」

 再びの静寂。と、今度はたった今語気を荒げた隊員がぽつりと発言しました。

「・・・いいえ」

「そっか」

 隊長は無線機を取り出し、それに話しかけました。

「おい、ちょっと来てくれないか」

 しばらくしてドアがノックされる音と、

「上溝です」

 の声が。

「入れ」

 と隊長が言うと、ドアが開き、通信員をやってた女性隊員が入ってきました。

「失礼します」

「よーし、これで全員揃ったな」

 ここで女性隊員が何かに気づいたようです。周りを見渡して、

「あの~ 橋本さんは?」

 それに隊長が応えました。

「辞めた」

「ええ?」

「諸般の事情てやつだ」

 女性隊員はちょっと納得してないようです。隊長の発言が続きます。

「さ~て、新規隊員の紹介だ」

 隊長は宇宙人を見て、

「名前は・・・ あ、まだ名前も訊いてなかったな・・・ じゃ、こっちから先にやるか」

 隊長はさっき喰ってかかった隊員を見て、

「まず、お前から」

「え?・・・」

「名前だよ」

 隊員はちょっと嫌な顔を見せてから、ぶっきら棒に発言しました。

「倉見だ」

 隊長は次はストーク号を操縦してた若手隊員を見て、

「次はお前」

「はい、自分は寒川です。よろしく」

 そう言い終わるや否や、寒川隊員は手を差し出しました。が、宇宙人は反応しません。頭の上に?を浮かべてます。寒川隊員はそれに気づき、言葉を続けました。

「あ、これは地球人特有の儀式で、握手ていうやつです。お互いの手を握りあって、心を通じ合うんですよ」

「わかりました」

 宇宙人は寒川隊員隊員と握手しました。

 隊長は次に女性隊員を見ました。

「次はお前だ」

「え~と・・・」

 今眼の前にいる人物は、ちょっと前に身柄を拘束した宇宙人のはず。それが新規隊員? 上溝隊員は何が起きてるのかイマイチ理解できてないようですが、とりあえず彼女も宇宙人と握手しました。

「上溝です。よろしく」

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