第33話 絶望と希望 part2
先代当主であり伝説の”獅子王”ハワード・ウォルズリーは、呆然とするジョシュアに衝撃的な言葉を放った。
『アーサーはおまえを次期当主として認めてはいなかったのだ』
白い影たちが下がり、ハワードの霊だけがジョシュアに歩み寄って片手を軽く払うような仕草をすると、全身にかかっていた凄まじい圧力は一瞬でなくなり、ジョシュアは全身の痛みをこらえながら何とか立ち上がると叫んだ。
「嘘だ!そんなバカな事があるはずがない!」
徐々に実体化し、すっかり生前の姿へと変化したハワードは、いきり立つジョシュアを諭すように語りかける。
「信じたくないのも無理はない。だが、これには理由があるのだ」
「……理由?」
ハワードが胸の前で両手を合わせゆっくりと開くと、柔らかな光の玉が浮かび上がった。
「ジョシュアよ。おまえにはわがウォルズリー家の者なら生まれつき持っている"力"が無いのだ」
憐れむように言うとハワードは光の玉をジョシュアに向かい投げつけた。あっという間にジョシュアの身体は光に包まれ、驚くべきことにそれと同時に全身の痛みも消えた。
「これが……"力"⁉バカな!こんなの……おとぎ話の世界の話じゃないか!第一、今までおじいちゃんから聞いたこともない!」
「……」
混乱するジョシュアを無視するようにハワードは無言で正面を指さした。
そこには内部に描かれた様々な時代の壁画がうねるように集中した巨大な壁画があった。
ハワードが壁画に近づき片手で触れながら何かをつぶやくと、絵の内容がどんどんと変化してゆく。
絵の中心部分に、全身黒づくめの女と黒髪・黒髭の男が率いる異形の怪物たち、そしてそれらと対峙する銀髪の老人と金髪の少年、少年を守るように寄り添う一匹の白猫の姿が描き出された。
「これは……!」
ハワードは想い出を噛み締めるように、ゆっくりと話し続ける。
「今からおよそ八十年前、第二次世界大戦の直前の事だった。わしの弟ルーパスが黒い森の魔女と手を結び、世界を破滅に導かんと行動を起こしたのは」
壁画は変化を続け、黒づくめの女から発せられた影がたくさんの人間を切り刻み、黒髪の男は自ら怪物と化し荒れ狂う壮絶な場面が広がっていく。
「黒い森の魔女はドイツとイタリアを支配下に治めると次の目標をイギリスに定め、一族に恨みを持つルーパスを利用し、政府や王室に強い影響力を持つこの家の乗っ取りを企んだのだ」
「じゃ、じゃあ子供の頃から読んでいたあの物語は……!」
「本当の事だ。魔女の側に弟が付いたことを除けばな」
ハワードは一瞬、皮肉っぽい笑いを浮かべた。
「遥か昔から、この壁画は世界の終末を描き続け、歴代の当主は様々な手段で世界線の修正に挑んだが徒労に終わった。だが、わしの代で暗黒の未来を回避できる可能性が生まれた」
「それが……」
ジョシュアは息を呑んだ。
「そう」
ハワードが指さす先に、金髪の少年が身体からあふれ出す光で魔女を打ち払い、暗雲が打ち払われてゆく様子が描かれていく。
「遥か日本から来た、当時わずか十歳のアーサーだ。ジョシュアよ。おまえの祖父は、世界を救ったのだ」
「おじいちゃん……!!」
「だがー」
ハワードの声がわずかだが沈んだのが、ジョシュアにも伝わってきた。
「誰もアーサーを救ってやることはできなかった」
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