第31話 一族の秘密 part3

 祖父アーサーの部屋で隠し扉に触れた瞬間、大きく開いた扉の向こう側に吸い込まれてしまったジョシュアを待ち受けていたのは、全く予想外の世界だった。

 塔の最上階に作られた隠し部屋のはずが、足元にはうっすらと雲が漂い流れ、仰ぎ見る頭上は深い湖の様な濃紺に近い青一色で、どこまでが地平でどこからが空なのかも曖昧になるような広大な空間が広がっているのだ。

 そしてこの未知の世界に、ジョシュアを待ち構えていたかのように漆黒の巨大な門だけが圧倒的な存在感でそびえ立っている。


「何だよ、これ……」

 すっかり混乱したジョシュアだったが、振り返るとさっきまであった扉はもうどこにも見当たらず、何もない空間が広がっているだけだった。


「こいつが何であれ、進むしかないってことか」

 黒一色の門は大理石とも鋼とも思える不思議な質感と重量感を感じさせ、よく見ると一面に複雑な模様が彫り込まれているのがわかる。

 試しに両手で押してみるがビクともせず、彫り込まれた模様のわずかな凹み部分に手をかけ引こうとしても結果は同じだった。

 途方にくれたジョシュアだが、あることに気づいた。門の中心部分、手を伸ばせばなんとか届きそうな高さのところにちょうど二ヶ所、両手が収められるようなくぼみがあるのだ。


「ひょっとしてこいつは……」

 恐る恐る両手を伸ばしあてがってみると、くぼみが赤く光り出し、その光はジョシュアの体を頭の先から爪先まで確認するかのように一周すると青い光に変わり、それが一面に彫り込まれた模様の隅々にまで瞬く間に巡ってゆくと、巨大な門がゆっくりと音もなく開いた。


「なるほど、一種の生体認証って訳だ。僕がウォルズリーの血を引く人間だから反応したという事なのか?」


 感心していたジョシュアだったが、突然、門の内部から警告するかの様な威圧感に満ちた声が響いてきた。

「これより先、進むことが許されるのはウォルズリーの当主となる者。

 即ち、流れ出でた聖なる者と預言者たちの血の重さの上に立ち、その声に従い、己の全てを世界を善たる道へと導くために捧げることを誓える者のみ。

 これを裏切る事があれば、その者の魂は地獄の業火で焼かれ、永劫の罰を受けることになるであろう」


 ジョシュアは一瞬立ち止まったものの、小さな笑みを浮かべた。

「永劫の罰、ね。面白い。自分が当主になれるほどの善人かどうかはわからないけど」

 ジョシュアの脳裏に、傷つき壊れていた自分をただ愛してくれた祖父アーサーの優しい笑顔と温もりが甦る。

 覚悟を決め、巨大な門の中へと歩を進めるとつぶやいた。


「おじいちゃんが捜し求めていたものが此処にあるなら、喜んで受けようじゃないか」

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