第9話 ロストボーイ part2

「本当にこんなところでいいのか?何だったらもう少し先の市内の方まで乗せてやってもいいんだぜ、外国人のあんちゃん」


 岡山と広島の県境に近い小さなサービスエリアの駐車場で、トラックを停車させた中年の男は、自分の車の荷台から降り立った若者に声をかけた。


「イエイエ、トンデモナイデス!アリガトゴザイマス、ドライバーサン」


 色褪せたベースボールキャップにラフなTシャツとジーンズに身を固めた若者は人懐っこい笑顔を浮かべた。


「しっかしあんちゃんも変わってるなあ。今時ヒッチハイクで日本旅行なんて。東京からここまで来るのに、俺で何台目だっけ?結構な時間もかかっただろうに」

「タクサン、タクサンカカリマシタ!デモ、ミンナヤサシイヒトデ、タスカリマシタ!」

「まあ、旅は道連れ、世は情けだからな!ほら、これやるよ」


 男は運転席の窓からコンビニ袋を投げ渡した。


「オウ!アリガトゴザイマス!」

「いいってことさ、じゃあ気をつけていい旅をしなよ!」

 走り去るトラックに微笑みながら手を振りながら若者はつぶやいた。


「長く一緒に居ると危険性も増すから、このくらいが安全なんだよね」


 若者は駐車場の木陰のベンチに座ると、袋をのぞき込んだ。中には薄いハムを揚げたものを挟んだサンドイッチらしきものとペットボトル入りのミルクティーが入っており、サンドイッチの封を開けてかぶりついた。


「……うん、まあサンドイッチだと思わなければ、悪くはない」

 続いてミルクティーを口にしたが、こちらは一口飲んだだけで顔をしかめるとそっとフタを閉めた。

「しかし、平和で面白い国だな、ここは」


 しばらくすると、駐車場に赤い小型車が停車し、中から中年女性の二人組が降りてきて自動販売機の方に向かっていくのが見えた。


「ちょうどいい。ゴールは彼女たちにしようか」


 おもむろに帽子を取ると、肩まで届くほどの長い金髪が現れ、陽の光にきらきらと輝いた。

 次に着ていたTシャツとジーンズをリュックの中から取り出した白いシャツと黒いパンツに素早く着替えると、飲み物を買って車に乗り込もうとしている二人組に近づき先ほどの運転手との会話とは違い、流暢で美しい日本語で話しかけた。


「あの、すいません……」


 振り返った女性たちは、突然目の前に現れた金髪・長身、白シャツに甘いマスクの美しい外国人の若者に一目で魅了されてしまった。

「……もしよろしければ、広島市内まで同乗させてもらえるとありがたいんですがー」

 その微笑みから逃れられる女性はいないだろうというくらいの魅力的な笑顔に、二人は二つ返事で答えた。

「も、もももももちろんです!」


 若者は後部座席に乗り込むと、助手席に座りこちらに熱い視線を送る女性にペットボトルを差し出した。

「ありがとう、素敵なレディ。よろしければ」

 キャーという喜びか悲鳴かわからない声を上げ、飲みかけのペットボトルをまるで優勝トロフィーのように受け取る相方をうらやましそうに見つめる運転席の女性の耳元に顔を寄せると甘く、小さな声でささやいた。


「レディ……尾道まで送っていただけると……助かるんですが……」

「は、はい!ヨロコンデー!」


 顔を真っ赤にした女性の大きな返事で

 勢いよく車は走り出し、

 改めて実に面白い国だなと

 

 ジョシュア・ウォルズリーは微笑んだ。

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