第7話 レイジング・ガール part3
携帯から溢れ出して止まらない母親の怒鳴り声を聴きながら、アンは途方に暮れていた。
「ところでアンタ、どこにいるの!」
「えー……」
「アンタの事務所やマネージャーからもずっと電話が入っていて、こっちも大変なんだから!もうすぐ店も開けなきゃいけないのに、仕込みもできゃしないじゃないの!」
アンの母親は小さいながら創作割烹とも呼ぶべき飲食店を営んでいて、そこで提供される料理は和食の昔ながらの一品からイギリスやフランスなどの西洋料理までバラエティに富んでいて、連日人気を博しているのだ。
「あー、迷惑かけてごめん、ママ!あいつらには昨日のうちにもう辞めるって言ってあるんだけど、しつっこくてさあ……」
「ちょっとアンタ、何簡単に辞めるなんて言うの!パリやニューヨークみたいな海外のショーで活躍できるようなモデルになるのが昔からの夢じゃなかったの?」
「……」
「ママみたいになりたい、ママが経験したような景色を自分も見てみたいっていうから芸能事務所に入るのも許可したのに!」
「……だってえ」
「とにかく!アンタ、今、どこにいるの!」
「……新幹線の中」
「……は?どこ行く気なのよ?」
「曽祖母ひいおばあちゃんのお家……」
「曽祖母ひいおばあちゃんのお家って、まさか……広島の尾道!?アンタ一回も行ったこともないでしょう?
第一、あそこは今じゃ住む人もいない荒れ果てたお化け屋敷みたいになってるのよ!」
「違うよ、キレイにリノベして、ホテルになるって!だからぜひ来て欲しいって招待状が届いてたもん!」
「招待状……?ちょっと!そんなの誰から?」
「知らない!もう切るよ、ママ!」
「ちょっと、アン!杏奈!こら!」
どうやらアンは着信拒否の設定をしたようで、それ以降は何回かけても電話は繋がることはなかった。
「あーもう!本当に昔からあの子は、言い出したら聞かない鉄砲弾なんだから!」
金髪に割烹着スタイルのアンの母親は、自分の店の厨房で通じないスマホを握りしめながらじっと考え込んでいた。
「どういうこと?……ホテルって、あのお化け屋敷を?しかも招待状って……あの子とアンおばあちゃんの関係は公にはしていないし、イギリスの実家とは連絡も取っていない。
第一、今のあの子の住所だって秘密のはずなのに……いったい、誰がどうやって調べたっていうの?」
コンロにかけられた大鍋のぶり大根も、オーブンの中の貝柱のテリーヌもすっかり火が通り過ぎていることに気がつかないほどに。
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