第102話 ゲームマスター ㉛ 三人称


 高木 忠義は昔の夢を見ていた。


 幼い頃は父親と母親は仲が良く、妹含め4人で幸せに暮らしていた。


 しかし、小学校に入学した頃に母親が他に男を作り、家庭を捨てて出て行ってしまった。


 それから父親は変わってしまう。酒に没れに子供達を虐待するようになる。

 当時はまだDV法が改正されておらず、警察は訪問に来るも家庭問題に任意以上の捜査をすることが難しかった。


 そんな状況が続いたある日、妹を守る為に父親に逆らった高木 忠義は酷い暴行を受け、真夏の暑い部屋に閉じ込められてしまう。

 意識が朦朧なり死ぬのだろうかとまで考えていた時、窓を叩き割り1人の男が入って来た。それは頻繁に高木家を訪問していた警察官だった。

 警察官は「怒鳴り声と暴れているよう音がする」と近所からの通報を受け、高木家を訪れるも父親に門前払いをくらう。そこで裏へ回り込み中を覗いたところ、怪我をして倒れている高木 忠義を発見し強行突破を行った。

 お陰で高木 忠義は病院に運ばれ一命を取り留める。


 その警察官は事件後、独断専行での器物破損、不法侵入の罪で相応の処罰を受けることになったが、状況を知る人々は子供の命を救った彼を正義の警察官の称賛した。

 

 この出来事により高木 忠義は正義の警察官に憧れ目指すようになる。





 

 走馬灯の様な夢を高木刑事が見ているのと時を同じくして、オミズは静かにベッドから出てモニターの前に立つ。


「ゲームマスター、もう連絡とれますか?」


 小声での質問の返答は、ゆっくりと扉が開くという形で示された。

 扉の先は通路になっていて薄暗く奥が見えない。


「……怖いな~」


 オミズは鉄パイプを手に先へ進む。


 通路に入ると扉はゆっくりと閉まり戻れなくなる。


「ここまで来てルール変更とはマジ勘弁してよ…」

『それも良いかもな』


 オミズの独り言にくれないがようやく声で返答する。


「…ここでの会話は高木刑事には聞えていませんか?」

『オミズの声も我の声も休憩室には届いていない』

「なら裏ミッションの話をしても良いよね」


 確認を取ってから、


「アタシ『ベッドのある部屋で性行為を行う』を達成したんだからゲームクリアでしょー」


 素の口調になり早く解放するよう抗議するオミズ。


『その予定だったのだが、高木刑事が早漏過ぎて観客が落胆しているのだ』

「そんなのアタシ知らないしー」

『会場に来て一発強姦でもされてくれないか?』

「紅ちゃんが高木刑事にられれば良いじゃん、ラストでゲームマスターが正義の警察官に犯されるとか斬新でしょ」

『阿婆擦れなオミズと違って我は乙女なのでな。あんなポンコツに抱かれるなどあり得ない』

「ぷぷぅー、処女のゲームマスターとか超ウケるー」


 もしこの会話を高木刑事が聞いたとしても、口調も内容も知っているオミズと違い過ぎて誰だか分らなかっただろう。


『ふふっ、冗談はここまでにして。ゲームクリアおめでとうオミズ』


 くれないは賞賛と共に指を鳴らす、それによりオミズの首輪が外れる。


「ふぅ~、ずっと生きた心地しなかった〜。てか何が「オミズさんなら楽々クリア出来る難易度です」だよー!初っ端から激ヤバだったじゃん」

『初っ端…あぁ、トロッコ問題のことか』

「あれガチなの?実は相棒の刑事が裏切り者で、死んだように見せかけただけとか…」

『そのようなヤラセはない。氷川刑事は自身の正義を貫いて自害したのだ、我に想定通りにな』

「想定通りね~。でもさ、第三ミッションでアタシが助けなかったら高木刑事主役が死んでたよ」

『オミズなら高木刑事主役が死ぬとクリア出来ない可能性を考えるだろ』

「…まぁそれも考えたけど」

『そしてハチグレが凶悪犯と分かれば高木刑事を助けないという選択肢はない』

「アタシも想定通りに動かされたってことか…」

『第一から第五まで我の想定通りに出場者が脱落して、オミズは無傷でクリア。何も嘘はないだろ』

「むぅ~……紅ちゃんって頭良いけど、性格メッチャ悪いね」

『ゲームマスターには唯の誉め言葉だな』


 因みに二人の会話は休憩室では聞こえないが会場には聞えている。観客もオミズの正体は知らないので、何者なのかについて憶測が会場で飛び交っていた。


『この後の話だが高木刑事とお別れを言いたければ休憩室に戻ってもいいぞ』

「う~ん…止めとく。ああいう思い込みが激しい男は面倒くさいことになるから」

『そうか、残念だな。正体をバラして高木刑事が逆恨みでオミズを殺すパターンは無理か』

「クリアしたのに殺そうとしないでよ!」

『くくくっ、確かにクリア後に殺すのはマナーに反するな』


 紅が再度指を鳴らす。それにより側面の壁が開き、もう一つの通路が現れる。


『クリアルームに続いている。ショーが終了するまで待機していてくれ』

「帰っちゃダメなの?」

『最終ミッションを見ずに帰るのか?』

「どうせ紅ちゃんが勝つんだから、見る必要ないじゃん」

『色々と趣向を凝らしているのだがな』

「アタシは他人が苦しむのとか興味ないんだよね、出場する理由はお金だけ」

『…なら仕方ないな。直ぐにスタッフを向かわせる』

「よろしく~」


 オミズはクリアルームに向かおうとして足を止める。


「ところで、裏切り者って誰の事だったの?」

『それを知りたければ最後まで見ることだな』

「えぇ~、意地悪~」






 休憩室にブザーが鳴り響く。


「っ!?ここは…そうか、デスゲームの…。…?磯野さん……?」


 目が覚めた高木刑事は同じベッドで寝たはずのオミズが居ない事に気づき、部屋の中を見渡すが姿はない。


『休憩時間は終わりだ高木刑事』


 モニターにくれないが映る。背景が変わっているが、今の高木刑事はそれどころではない。


「おい、磯野さんを何処にやった?」

『教えて欲しければ、通路を進んで我の元まで来るが良い』


 扉が開き薄暗い通路が現れ、モニターは消える。


 


 オミズが心配な高木刑事は急いで通路を真っすぐ進む。

 暗い通路を抜けるとそこは、


『皆、長らくお待たせした。五つのミッションを乗り越え、我との対決に辿り着いた正義と掲げる警察官。高木刑事の入場だ!』

「なんだこれは!?」


 中央に金網リングがあり360度を観客が埋め尽くす、豪華で煌びやかな武闘会場であった。

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