第100話 ゲームマスター ㉙ 三人称



 高木刑事とオミズが次の扉をくぐると、そこは八畳ほどの部屋。

 右側に広いベット、左側にテーブルと二つの椅子、左隅に三段の収納ボックス。テーブルの上には水のペットボトルと数種類の携帯食が置いてあった


「ここは…」

「休憩室のように見えますね」

「…そう見せかけてるだけじゃないか。人の悪意を煮詰めたようなあの女が、休憩室など用意するとは思えない」

「でも第四ミッションで水を飲みましたが、身体に異常はないでしょ」

「それはそうだが……、何かしらの意図があるのは間違いないだろ」

「意図はあるでしょうね。ゲームマスター、答えて貰えますか?」


 オミズがモニターに話しかけるが反応はない。ただモニターには進み続けているタイマーが表示されている。


「あのタイマーは…さっきの部屋が爆破するまでの時間か」

「でしょうね(今はまだこちらの話を聞いていないのかな)」


 仕方ないのでオミズは椅子に座り、テーブルに置いてあるペットボトルを手に取る。


「座りましょう、喉も渇きましたし」


 高木刑事も椅子に座りペットボトルを取る。第五ミッションが体力系だっただけに、水が飲めるとなると喉の渇きを激しく感じペットボトルを一気に呷る。

 

「ふぅ~…」


 高木刑事が飲んだのを見てから、オミズも水を飲む。


「岡本さんも言ってましたが、ただの水が本当に美味しく感じますよね」

「ああ…、そうだ!まだ時間はある」


 高木刑事は新しいペットボトルを手に、入って来た扉に向かう。


「何をするつもりですか?」

「岡本さんに水を届ける。彼も喉が渇いているはずだ、せめて最後に」


 そう言って扉の前に立つが反応はない。入る時は勝手に開いたので自動ドアだと勘違いしている高木刑事。


「出る時は手動か…?」


 さらに取っての無い扉を手で開けようとする。

 

「落ち着いてください。一度入ったら出られないようになってるんですよ、今までの部屋だってそうだったじゃないですか」

「…そうか」

(てか部屋の物の持って戻れるなら、椅子なりシーツなり岡本さんを助けれそうな物を持って行くべきじゃん。ほんとポンコツだなこの刑事) 


 俯いてトボトボと椅子に戻る高木刑事に、冷ややかな視線を送るオミズ。


「……岡本さんの両親は本当に彼をデスゲームに売ったのだろうか?」

「どうでしょう?世の中色々な親がいますから…(話題を岡本さんから変えた方がいいかな)。高木刑事のご家族は?」

「妹が1人いる。親は小学生の時離婚して父子家庭になったんだが、父親に問題があり祖父母に引き取られたんだ」

「問題…第四ミッションで少し話に出た虐待のことですか?」

「酔って暴力を振るわれたり、真夏の暑い部屋に閉じ込められたりも確かにあったな…。警察が助けてくれなければ、今私は居なかっただろう」

「それで警察官になったんですか」

「まぁ、影響は大きいかな。磯野さんのご家族は?」

「両親と弟で四人家族。お父さんは優しかったけど借金があって凄く貧乏だったんです。だから少しでも稼ごうと思って水商売やってたの」

「…では店のお金を盗んだのも親の借金返済為に?」

「言い訳にもならないって分かってます」

「いや、磯野さんのような思慮深い女性が盗みを働くなら、相応の理由があると思っていた」


 オミズが借金で貧困な生活を送ってる家族の為に店の金を盗んだと、勝手に解釈する高木刑事。


 と、ここで、


「「っ!?」」


 爆発音が聞こえ部屋が揺れる。


「岡本さん…」


 それにより想像してしまうニートボールの最後。


『待たせたな』


 モニターにくれないが映る。


『その部屋は休憩室だ。…もう水は飲んでいるようだな、食料も毒など入っていないから遠慮せず食べろ』


 爆破に動揺している二人を気にせず説明を始めるくれない


「岡本さんはどうなった?」

『聞く必要あるかそれ、爆破音ぐらい聞こえただろ』

「時間はまだ残っていたようですが」


 高木刑事と会話をしながらもオミズはタイマーを気にしていた。爆破まで一分程残っていたのを目にしている。


『デブがただ座っているのを見てもつまらないのでな、短縮させてもらった』

「…意外ですね、ゲームマスターがルールを曲げるなんて」

『言ったはずだぞ、我がルールだ』


 意味深な視線を交わらせるくれないとオミズ。

 

『説明の続きだが、隅の収納ボックスには一段目に救急箱、二段目にはタオル、三段目には水のぺットボトル。怪我の手当てに使うといい』

「…何の、つもりだ?」


 高木刑事はここまでで少なからず負傷している。手当出来るのは有難いことだが、裏があるようにしか思えない。


『次が最終ミッション、我との直接対決だ』

「っ!…次で最後…」

『疲弊したお前達を叩きのめすのではショーの最後に相応しくない。なので今回休憩は少なくとも一時間はとってやる』

「…お前に勝てば私達は解放されるのだな」

『そうだ、我に勝てばゲームクリアとなる。勝てればだがな』

「最終ミッションはどんな内容か教えて貰えますか?」

『金網デスマッチだ』


 あっさりと教えるくれない

 

『一対二で戦うか一対一を2回戦うかはお前達に選ばせてやる。武器の使用も可、鉄パイプが役立つぞ』


 しかも最終ミッションは出場者側に有利に思える内容。


「…それだけってわけではないでしょう?」

『あとは会場に来てのお楽しみだ』

「ちょっと待て、デスマッチということはお前を殺すことが勝利条件なのか?」

『ここまで来て我を殺したくないと言うのか高木刑事』

「殺したいほど憎いに決まっている。だがこんなことが1人で出来るとは思えない、組織ごと潰す為にお前には知っていること全てを吐いて貰う」

『全く無意味な考えだ……が、先の発言をたがえることになるか。ふむ、殺さず勝利出来るルールを追加してやろう』


 デスゲーマー1人が情報を漏らしたところでデスゲーム業界に微塵も影響はないので無意味なのだが、第二ミッションの時「正義の鉄槌を下すも法の裁きを受けさせるも自由」と言ったのを思い出しルール追加を決める。


『さて、そろそろだな。我も最終ミッションに向けて準備や移動があるのでしばらく連絡はしない。その方がお前達も気が休まるだろ』


 長めの休憩は設営準備の為であるが、最終ミッションで高木刑事に出来る限りのパフォーマンスをしてもらいたいのも嘘ではない。


『我に挑むのだ。死力を尽くせるよう心身共に整えておけ』


 モニターが消える。

 それを見てオミズは直ぐに立ち上がり隅の棚へ向かう。


「ちゃんと救急箱が入ってました。手当てしましょう、服を脱いでください高木刑事」

「え、いや、自分で…」

「鞭で打たれた背中は自分では無理でしょう。これぐらいさせてください、第五ミッションで引っ張り上げてくれたお礼です」

「…ならお願いします」


 

 手当ての途中、


「……大丈夫ですか磯野さん?」

「何がですか?」

「震えているような…」

「…大丈夫ですよ」

 

 一通り手当てを終わり、


「こんなものですかね…、包帯がキツくないかちょっと動いてみてください」


 立つように促すオミズ


「良い感じです、ありがとう」

「良かった……」


 そしてオミズは、手当の為に上半身裸になっている高木刑事に抱きつく。


「磯野さん!?」

「すみません、本当は大丈夫じゃないです」


 胸の中で震えるオミズ、


「あんな人を人と思っていない相手と戦うことを考えたら怖くて…、どんな残酷な殺され方を…」

「…大丈夫だ、磯野さんは必ず私が守る!」

 

 それを強く抱きしめる高木刑事。

 予想以上に運動能力が高く度胸があってもオミズは小柄な女性、正義として助けるべき弱者。高木刑事は最終ミッションのデスマッチ、一人で戦い勝つつもりでいる。

 高木刑事の熱い瞳をオミズは潤んだ瞳で真っ直ぐ見つめる。


「高木刑事、アタシに勇気を分けてください」

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