第98話 ゲームマスター ㉗ 三人称



「今回は20分か…、制限時間の基準は何なんだろうな?」 


 開始の合図を出してくれないは消え、タイマーの表示だけになったモニターを見ながら呟くニートボール。


「今はそんなこと考えてる場合じゃないと思いますよ」

「そうだ、なんとか出口に登る方法を考えなければならない」

「考えるも何も、その踏み台で飛んでロープに掴まって、ターザンみたいに出口のところへ行けってことったろ」


 ニートボールの言葉に微妙な顔になる高木刑事とオミズ。言っている事は正しいが一番登れそうにないのが当のニートボールがなのだから。


「…とりあえずアタシがやってみて良いですか」

「私が安全かどうか確認してからの方が…」

「ここまで来て不意打ちの罠は無いですよ」


 ステージ1、2、3と不意打ちの罠はなかったのだから4で罠がある可能性は低い。くれないは高木刑事を最終ミッションまで来させたいのだから一番手が負傷するような罠は仕掛けないとまでオミズは考えている。

 なので時間に余裕がある内に自分登れるか2、3回試す事が先決と考えた。


「ぶら下がったらスカートの中が見えるぞ」

「…じゃあニートボールは目瞑ってて」

「オレだけかよっ?しかもニートボール呼ばわり」

「……頭の中大丈夫?」

「言い過ぎじゃねぇっ!?」

 

 オミズは悪口のつもりではなく、こんな状況で軽口を叩けるニートボールの考えが本気で分からなかったからつい口に出たのだ。


「大丈夫だ、今までにないぐらい頭の中がスッキリしてる」

「ふ~ん…まぁいっか。それじゃやってみるね」



 二人に脇に逸れてもらいオミズは助走をつけてロイター版を強く踏み、ロープに向かって跳ぶ。


「んんっ…」


 ロープの先端に片手が触れるも、掴むことは出来ない。


「惜しい、もう少しだ」

「何気に運動神経良いよなオミズ」


 小柄な女性では触れただけでも大したものだと言える。


「もう一回やらせて」


 その後、2回ほどチャレンジするが掴むことは出来なかった。


「…無理っぽいな」

「高木ならあれ掴めるよな」

「出来るとは思うが…」


 高木刑事は身長178㎝あり、垂直跳びの記録も平均より大幅に高いのでロープを掴むことは難しくない。くれないが集めたデータからそう設定したのだから。


「なら先に登ってくれ」

「だが二人が…」

「出口の下でオレの肩にオミズが立って、上から高木が手を伸ばせば何とか引っ張りあげれんじゃねぇか」

「「え!?」」


 ニートボールの提案に目を見開いて驚く高木とオミズ。


「無理だと思うか?」

「いや、可能性は高いと思う…」

「なら早く登ってくれ、時間がねえ」

「しかし、岡田さんはどうやって登る?」

「そりゃロープに跳びついて登るよ」

「それは…」

「さっきの雲梯見てただろ、オレはここぞという時は出来る男なんだよ!だから心配せず先に登れ」

「……分かった」


 ニートボールの言葉に納得したわけではないが、まずオミズを登らせることを優先と考えた高木刑事。


「あ、高木刑事…。その、登っても奥に行かないでくださいね。戻れないかもしれないので」

「大丈夫、置いて行ったりしない」


 この時オミズは別に試したい方法があった。しかし自分が登る方法を提案してくれたのに、それを後回しにするのは憚られた為言葉を変えた。


 高木刑事は助走をつけロイター版を踏んで跳び、


「よし」


 危なげなくロープを掴む。

 

「焦ると変な方向に揺れてしまうと思うので、慎重に体を振ってください」

「ああ」


 出口の方向に向かって慎重に体を振り、ロープを揺らす。そして十分出口に足が届くところで飛び移る。


「よしっ、行けた!」

「よかったぜ、高木が行けなかったらどうしようもなかったからな」


 もし高木刑事が登れなかったらくれないも困っただろう。


「次はオミズだな」

「……本当に良いんですか?」

「オミズが1人で登ること出来ねぇんだからこうするしかないだろ」

(アタシで登れなかったらデブが登れるわけないじゃん。やっぱり頭イカれたのかな?…それでも変な感じだけど…)


 本音は口に出さず、だけど首を傾げるオミズ。


(アタシを犯そうと考えてるわけじゃなさそうだし…)


 デスゲームでは絶望的状況になると、死ぬ前に女を強姦しようとする男は多い。

 ニートボールか高木刑事を先に行かしたのは、オミズを犯すのを邪魔されない為とも考えられなくはなかった。

 しかし、


「何してんだ、早く来いよ」


 出口の真下にあたる壁の前で片膝を着くようにしゃがむニートボール。

 犯そうなんて考えは頭に無く、オミズを肩に乗せて出口に登れらせる提案に嘘も他意もないはオミズから見ても分かる。


「これぐらい屈んたら、肩乗れるか?」

「うん、大丈夫」

「オレは立ち上がるのに集中するから、バランスは自分でとってくれよ」

「ふらつかないでね」

「……とうとうオレには敬語使わなくなりやがったな」

「使って欲しいならそうするけど」

「要らねぇよ。それよりさっさと乗れ」

「あ、ちょっと待って」


 オミズは上を見上げ、


「高木刑事、鉄パイプ投げるから受け取ってください。ちょっとでも軽い方が良いですし、もし手で届かなかったら鉄パイプを使いましょう」

「そうだな、投げてくれ」


 持っていた鉄パイプを高木刑事に投げて渡す。


「それじゃ乗るよ」

「おう」


 オミズがしゃがんでいるニートボールの肩に立つ。


「お、意外と立ちやすい」

「……おぉ…意外と重てぇ…」

「重くないよっ!」

「そ、そんじゃ立つぞ、落ちんなよ」

「うん、良いよ」

「うおぉ!…」


 立ち上がろうとするとステージ2で鉄球を喰らった左足首が痛み、またステージ3で走った疲労で太ももが震えるニートボール。

 それでもこれが最後と、


「おぉりゃぁー!!」


 力を絞りつくす思い出立ち上がった。


「高木!イケるかっ?」

「磯野さん、手を!」

「はい!」


 高木刑事とオミズの伸ばした手は、がっちり掴み合えた。


「掴めた!引っ張り上げる、痛いかもしれないが我慢してくれ」

「大丈夫です」


 一人で50kgの女性を引き上げるのは簡単ではないが、そこはさすがに鍛えている警察官。

 しっかりと引っ張りあげオミズを出口まで登らせた。


「ありがとうございます高木刑事!岡本さん!」

「良かった、無事登れて!」

「あぁ〜、しんどかったぁ」


 オミズが登れたことで力が抜け、その場に尻を着くニートボール。


「よし、次は岡本さん番だ」


 三人でクリア出来ると信じてる高木刑事に、


「…はは、さすがに無理に決まってんだろ」

 

 ニートボールはあっけらかんとそう言った。

 

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