第97話 ゲームマスター ㉖


「たった10分でランナーズハイですか…」


 モニターで休憩中の映像を確認すると、ニートボールさんがステージ3を通過出来た理由が分かりました。

 スピーカーを切っていなければ対策も…いや、エンドルフィンが分泌されて痛みや疲れが緩和されてるとしても、所詮はニートボールさんと捨て置いた可能性が高いかな。

 それに最後のトリガーは私が極限まで追い詰めた事で、逆に生きようとする意志が強くなったように見えましたし。


「まさかニートボールさんが、あんな主人公覚醒みたいなこと起こすなんて…」

「文字通り火事場の馬鹿力だな。ただのデスゲームならこれも取れ高と言えるんだが…」

「これはデスゲーム型殺戮拷問ショーですからね」


 殺戮拷問ショー愛好の方々は焦らされるのが嫌いらしいので、不満に思っていそうです。

 

「ステージ1、2の様子から、雲梯を半分進めただけでも意外に思えたんですよね」

「同感だな」

「あそこで最後の力を振り絞ったと考えたから、私はニートボールさんの死を確信したのに。あれでは私の方が笑い者です」

「そこまでじゃないと思うが……まぁ通過されてしまったものは仕方ない。切り替えよう」

「そうですね」


 モニターを見ると三人がステージ4フォーの部屋に入り見回しています。

 ステージ4は第五ミッションの最後ですが、一番単純な造りです。

 有るのは床に固定されたロイター板跳び箱の踏み台と天井から垂れている太いロープ。

 今までの部屋との大きな違いは天井が高いことと、次につながる出口も高い位置にあること。

 垂れ下がるロープの先端も高い位置にあり、その手前にロイター板があるので誰でも意図は組めるでしょう。

 


 モニターとマイクを付け、


「第五ミッションの最後となるステージ4だ。制限時間15分以内に部屋から脱出すればクリア《成功》となる」


 三人にルール説明をする。


「タイムオーバーになった場合、部屋が爆発するから気を付けろよ」

『部屋が爆破だと!?』

「出口に登れたとしてもそのまま居たらまず死ぬ。その先にある扉から次の部屋に入ることで脱出完了だ」


 首が吹き飛ぶのは既に二回見せてますからね、この部屋に残った人は派手に木っ端微塵になって貰います。

 高木刑事がお間抜けなことして死なないかがちょっと心配ですけど。 


『……あの、ロープの位置が高過ぎるんですが…。設定ミスじゃないてすか?』

「設定ミスではない」

『でも今までとは難易度が明らか違うんだけど…』


 オミズさんがそう言いたくなるのは仕方ないでしょう。

 ステージ4は平均値成人男性でもちょっと難しいぐらいに設定しています。

 的確な言い方をすると身長170cmを基準にロープの高さを設定したので、運動能力が高くても155cmしかないオミズさんにはかなり難しいと言えます。


「協力し合えば良いだろ」


 とはいえ、オミズさん単独では難しいであって、高木刑事に協力してもらえば十分クリア可能です。


『協力し合えと言われても…』


 ですが、運動能力の低く160cm110㎏のニートボールさんには協力してもらっても不可能と言えるでしょう。

 

 ステージ3をニートボールさんが通過したのは驚きですが、火事場の馬鹿力はデスゲームでは稀に起こり得ること。ステージが4まであるのは稀が起こった場合の備え。

 つまり今の状況も私の想定内という事です。

 

『コスプレ女、あのロープはオレがぶら下がっても千切れたりしないだろうな?』

「…安心しろ、例え300㎏の人間でも耐えれる強度だ」


 ニートボールさんはまだ脳内麻薬でハイになってるんでしょうか…?

 そうであったとしても流石にステージ4を通過出来るとは思えませんが、……これはさらに観客の期待を裏切る展開もあり得ますね。

 

 今考えても仕方無いので、始めましょう。

 


『では、第五ミッション・ステージ4、スタートだ』

 

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