第93話 ゲームマスター ㉒
ニートボールさんが足首の痛みに耐えつつ、ノロノロ匍匐前進しています。
赤光面と床との幅は、他2人には余裕でしたが、肥満体のニートボールさんではギリギリ。
そして体が硬いからか進む時にお尻を上げてしまってます。
『痛ぎゃっ!』
その為、進む度に鉄球をお尻に喰らっています。
「くくくくっ…、尻に鉄球を撃ち込まれるのがそんなに気に入ったのかニートボール」
『黙れつっただろうがクソコスプレおん、うぎゃぁっ!』
「ぷっ、あはは…」
ゲームマスターの私が笑いを堪えきれない光景、会場の観客達も爆笑されています。
何とか赤光面を潜り抜け、ニートボールさんが青いゾーンに到達したのはタイマーが【00:29】と結構ギリギリでした。しかも一人で鉄球とトータル11発も喰らってます。
第五ミッションのターゲットはニートボールさん。
愚鈍なデブが痛めつけられ無様に死ぬのを笑えるショーにするのがコンセプトではあったのですが…、
いや~、私の予想を超えてきましたね~。
『大丈夫か?』
『…大丈夫つってんだろが!オレを哀れむんじゃねぇ!』
心配して差し出された高木刑事に手を払いのけるニートボールさん。
今だ現状を理解出来ていないのでしょう、お可哀そうに。
『落ち着いてください岡本さん、怒りで思考を乱すとゲームマスターの思惑にハマります』
『コスプレ女の思惑がオミズに分かんのかよっ!』
『恐らく第五ミッションのターゲットは岡本さんです』
『あん、ターゲット…?』
『第四ミッションでは古田さんが死ぬように仕組まれていたでしょ』
『ああ…けど、オレは裏ミッションなんて知らねぇぞ』
『裏ミッションよりも、重要なのは出場者の過去情報を細かく調べられていることです。情報から思考に読んで、言葉巧みに罠に嵌めようとしてるんです』
『…それで、ごちゃごちゃ言ってくんのか』
『高木刑事が罪をでっち上げられたように、悪いのはゲームマスターです』
上手い言い回しですねオミズさん。問題点は運動能力が低い事なのに、罠に嵌めようする私が悪いという事にすり替えた。
さらに、高木刑事も被害者だと再認識さることで、
『そうだな…。わりぃ高木、頭に血が上ってた』
『いえ、落ち着いたならなにより。私も感情任せに動いてしまうタイプなのでお互い気を付けよう』
『ああ、絶対コスプレ女にいいようにヤラれねぇ』
仲直りも同時に行った。この二人は
私は次の扉を開くよう指示を出す。
「ステージ
次の部屋も広めの通路、ただ前の部屋よりは短い。
『あん…、何もねぇじゃねぇか』
一見何もないように見えます。
「もう少し進めば分かるさ」
『……私が先導するので2人は後ろをついて来てくれ』
「安心しろ、開始前に不意打ちなどしない」
私の言葉を聞かず三人は縦一列になって慎重にゆっくり進む。信用出来ないのは当然ですけど、これまで私の言葉に嘘はないと気づかないものですかね…。
三人は反対側の扉から一m手前で止まる。
『…これは、透明なアクリル板』
『向こう側にあるのは、第二ミッションで見た押しボタンですね』
『げっ、また壁が迫ってくるんじゃないだろうな』
「壁は動かないさ、同じことをするショーなんてつまらないだろ」
別の個所が動きますけどね。
「そのアクリル板は、開始10分後に開き通れるようになる。ボタンは別の用途だ」
『……10分間何をするんですか?』
「一先ず後ろを見てみろ」
入って来た扉から二mまでの床にステージ1でもあった赤い光の面を張る。
「その赤いゾーンに入ったら、また痛い思いをすることになるからな」
『後ろにあんのに入るわけねぇだろ』
「ああ、ステージ2は入らないようにするだけでいい」
『どういう意味だ?』
「直ぐに分かる」
ここも時間を取る気はないので、さっさと始めましょう。
「第五ミッション・ステージ2、スタートだ」
私が指を鳴らすと、通路の床が動き出す。
『『『っ!?』』』
床は後方へ動いています、止まっていれば赤いゾーンに入る。
つまり、
「ステージ2は10分間の軽いランニングだ」
床の動くスピードはランニングマシーンで言えば時速8㎞。
「アクリル板の向こう側にあるボタンを押せば床は止まる。普通なら赤いゾーンに入ることはないだろう、普通ならな」
私はニートボールさんに視線を向け、
「今回も期待しているぞ、くくくっ」
声をかけてからカメラとマイクを切るよう指示を出す。
「もうテーブルは片づけて良いな?」
「ええ、お願いします」
食事を終えてるのを見て、音重さんが片づけてくれます。ついでに言うとステーキだけでなくサラダも食べていました、ゲームマスターのイメージが壊れそうなのでカメラに映らない様に。
「ニートボールさんは何分持ちますかね?」
「う~ん、簡単過ぎると思えたステージ1ですら、テスト最多の倍以上ミスしてからな…」
第五ミッションの内容を決めた後、念を入れて事前に90㎏越え肥満のアラフォー男性を多数集めてテストを行ったのです。
結果、ステージ1で赤光に触れた回数が一番多かった人で五回。
テストでは鉄球は撃ち出されませんが、その差を引いても11回は最大予想のさらに上。笑えましたし観客達にも大ウケでしたが、タイムオーバーになっていたら逆につまらない展開になるところでした。
「テストでは大半が10分間走しれていたな」
「まぁ、時速8㎞ですから。と言っても、足を痛めてたら結果は変わるでしょうけど』
私が挑発してまで喰らわした足首への一撃は下準備なのですよ。
「音重さんは四つのステージ全てを見事ノーミスでしたね」
「あの程度で見事と言われてもな」
音重さんも体重90㎏と言うので、テストに参加してもらいました。正確には獅子頭部長が「お手本の一番手として音重が出ろ」と命令したんですけどね。
音重さんは謙遜してますが、ステージ
クリアした他の2人に話を聞くと、普段趣味でスポーツをしていて、二十代の時は標準体重だったけど、三十を超えた辺りから同じ食事量なのに太りだしたとのこと。それを聞いて音重さんも「分かるわ~」と言っていました。
食事内容を聞いてみると、揚げ物をおかずに白米を食べるのが大好き、という三人の共通点が分かりました。
太った原因は明白ですね。
「テストでも運動不足+110㎏肥満に該当する者はいたよな」
「ええ、ステージ2の結果は8分でアウトになっていました」
「足の怪我を含めると…下手したらステージ2で動けなくなる可能性があるな」
「トドメはステージ3のつもりですが、動けなくなったら首輪を爆破します。でもステージ2は協力プレイも出来なくはありません」
高木刑事とオミズさんがどう動くかがキーポイントですね。
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