第92話 ゲームマスター ㉑ 三人称


 ニートボールが触れたのは縦に等間隔で三本の赤光線。高木刑事とオミズは余裕で通れたが、ニートボールは出っ張った腹が僅かに触れてしまい、その腹に鉄球が撃ちこまれた。


「岡本さん、大丈夫か?」

「痛っ……だ大丈夫に決まってんだろ、高木はさっさと渡りきれ!」


 明らか強かっているニートボール。だが逆に強がりを言える程度には大丈夫だと分かる。

 気にはなるが、今は前に集中する高木刑事。


 次の赤い光は、線と言うよりは面。

 足元に奥行き170㎝の赤い光の面が敷かれている。


(立ち幅跳びか…)


 うしろの赤光線に当たってしまうので助走はつけれない。だが警察官として年一で体力測定を行っている高木刑事は自分の運動能力を把握しており、目の前の幅ぐらい飛び越えれる自信がある。

 そして実際余裕で飛び越えることが出来た。


(この程度なら2人も…)

「うごぉっ!…」

「な…?」


 またも聞こえたニートボールの呻き声。

 触れたの上下左右に四本の赤光線が張られているウチの一本。

 下の線を跨ごうとした時に上を気にし過ぎて、突き出した尻が左の線に触れてしまった。そして股を開いている状態で肛門に鉄球が撃ち込まれたのだ。


「岡本さん、もっと慎重に」

「う、うるせぇ!分かってるわ!」


 ニートボールも赤光線に触れないように慎重の通ろうとした。それでも触れてしまうのだ。

 

「高木刑事、速く先に進んでください」


 オミズはノーミスで高木刑事の一つ後ろを着いてきている。


「心配して足を止めても、時間のロスでしかありません」


 オミズの言葉は冷たく思えるが、事実としてニートボールを手助けすることは出来ない。

 高木刑事もそれは理解しているので、先に進む。

 

 次も赤い光の面。奥行き3m張られているので高木刑事でも飛び越えることは出来ない。だが今回のは赤光面と床とは、うつ伏せになれば通れる隙間がある。

 高木刑事は匍匐前進で赤光面の下を慎重に進む。

 そして問題なく通り抜ける。


 立ち上がると次の部屋へ続く扉との距離は1m程度。

 だがその前の、


「最後は青…?」


 床が青くなっていた。


『青いゾーンに到達でステージ1通過だ。三人共到達したら扉を開けてやる』

「これで、終わり…」


 簡単過ぎて拍子抜け、それが高木刑事の正直な感想だった。

 しかし、


「痛ぎゃっ!」


 またニートボールが鉄球を喰らう。一本目の動く赤光線に尻が触れてしまい、右臀部に鉄球が撃ち込まれた。


(何故あれを通れない!?)


 高木刑事は決してニートボールをバカにしている訳ではない。

 見た目からしてニートボールの運動能力が低いのは分かる。それでも慎重に動けば線に触れず通れそうに思えるほどステージ1は簡単なのだ。

 そしてそれは、ニートボール自身も思っていた。

 

 数年ほぼ引きこもり状態のニートボールは、自分の運動能力と身体のサイズを把握出来ていない。頭の中のイメージと現実とがかけ離れている為「これぐらいならセーフだろう…」がアウトになっているのだ。



 一方オミズは、


「よっと」


 170㎝の赤光面を軽々と飛び越える。


「これを潜るのかぁ…」


 次の隙間を匍匐前進で通ることも、身体のサイズ的に問題ない。

 ただオミズはキャミドレスを着ている、


「スカートの中、覗かないでくださいね」


 振り返り後ろにいるニートボールにお道化おどけるように言うオミズ。


「そんな余裕あるわけねぇだろ!」

「…もっと余裕持った方が良いよー」

「気散らすんじゃねぇ」

「はぁ~…」


 溜息をつき、うつ伏せになって匍匐前進で赤光面の下を素早く進むオミズ。



「こんぐらい本気になりゃ」


 二本目の動く赤光線にタイミングを合わせて通るニートボール。 

 今度は尻が当たらないようにと思い気って前に出る。

 しかし、


「ぐほっ!…」


 前に出過ぎて三本目の光線に腹が当たってしまい、横っ腹に鉄球を喰らうニートボール。


『くくくくっ、すでに4発。ウケ狙いでワザと当たっているか?』

「う、うなわけねぇ、だろが!……」

『本気でやってそのざまか?愚鈍にもほどがあるな』

「黙ってろやクソコスプレ女!!」

「あの女は気にするな岡本さん。まだ時間はあるから落ち着いて」


 タイマーは【05:10】、まだ半分以上残っている。

 それに、


「よし、アタシも通過です」


 オミズも青いゾーンに到達したので、前がつっかえることもない。

 普通なら問題なく通過できる、普通なら。



「ふ~、はぁ、ふ~、はぁ……、次はこれを跳び越えんのか…」

『教えておいてやるとその幅は170㎝、成人女性の立ち幅跳びの平均値だ。30代男性なら跳び越えれて当然だな』

「…言われなくても、これぐらい余裕だっ!」

「待て、挑発にのるな!」


 高木刑事の制止の声を聞かず、適当に跳んでしまうニートボール。 

 案の定、赤光面を超えれず踏んでしまい、左足首に鉄球が撃ち込まれる。

  

「痛だぁぁああっ!!」


 肉の厚い腹や尻は耐えれたが、足首は痛みが段違い。


「大丈夫か!?岡本さん!」

「……」


 激痛に蹲り返事すら出来ないニートボール。


『そんは風に丸まると本当にミートボールみたいだな、くくくっ』


 不様な姿をさらに愚弄して、楽しそうに笑うくれない。そしてまた、会場の観客達も大いに笑っていた。


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