第91話 ゲームマスター ⑳ 三人称


 次の扉が開き、モニターが消えた後、一番最初に立ち上がったのはニートボール。


「さっさと行こうぜ。コスプレ女また首輪を爆破するとか言い出さないうちによ」

「…私も古田さんに銃口を向けていれば…」

「気にする必要なんでねぇだろ高木。一人裏ミッションなんかあった、おっさんが裏切り者ってこったろ」


 裏ミッションを授けられていないニートボールが、騙して一人抜けしようとしたパチンカスを裏切り者と考えるのは無理もない。


「アタシも気にする必要ないと思います」


 オミズは裏切り者確定とまでは思わないが、パチンカスことを気にする必要は皆無だとは思っている。


「あのゲームマスターの言葉は信用出来ません。高木刑事を罠にハメて罪を作ったように、古田さんが死ぬよう仕組まれていたんだと思います」

「それは…私の判断は関係なかったと?」

「銃を撃つ順番も弾の位置も決められていました、そして裏ミッションの内容は他の人は知らない。決めていた結果に誘導することは不可能ではありません」


 オミズでも高木刑事は自分に向けて三回引き金を引くと予想出来た。

 なら過去の情報まで調べているくれないは、事前にこの結果を想定していたとオミズは考える。


「…何故あの女はそんな結果に誘導を…?」

「それは、高木刑事を苦しめる為だと思います」

「オレもそう思うわ。あのコスプレ女、高木が主役とか言っといて、精神攻撃の標的ってだけじゃねぇか」


 さすがにここまで来れば、誰でもくれないの思惑に気にづく。徹底的に高木刑事を苦しめて楽しんでいることぐらいは。


「なので気丈に進むことで、ゲームマスターの思惑を外すことが出来ると思うんです高木刑事」


 これについてはこじつけだが、


「…ありがとう、励まされてばかりだな私は」


 励まそうとする意志は高木刑事に伝わっている。


「お礼はいらないよ、高木刑事の判断が違ってたらアタシが死んでいたかもしれないからね」


 弾の位置が六発目だということは、順当に一回づつ引き金を引いた場合オミズが当たっていた。内心危なかったと思っていて、高木刑事のおかげで助かったとホッとしている。


「…磯野さん…?」


 口調が変わった事に一瞬違和感を覚える高木刑事。


「ところで高木刑事…」


 そんなことは気にせず、オミズは鋭い視線を拳銃に向ける。


「射撃は得意ですか?」




 扉から次へ進むと、部屋と言うよりも広めに通路になっていた。

 しかし、


「何だこりゃ?スパイ映画のアレか?」


 通路には赤い光の線が張り巡らされていた。


「…触れたら焼き切れるんですかね?」

『そこまでのことにはならない』


 天井隅の小さいモニターにくれないが映る。


『第五ミッション・ステージ1ワンは、赤い光線を避けながら十分以内に通路を渡れ』


 赤い光線が張り巡らされているのを見た時点で、触れずに渡らなけれがならないのは三人も察していた。

 だが、より気になる言葉があった。


「「「ステージ1ワン?」」」

『そう、第五ミッションは4つのステージを通過してクリアだ』

「何でここで刻むんだよっ!」

『ステージ一つ一つは簡単に通過出来るからだよ、普通ならクリア当然のミッションだ』

「…コスプレ女の普通を世間一般の普通と一緒にすんじゃねぇよ」

『安心しろ。日本人の平均データから、我がなんとなくで設定したステージだ』

「なんとなくで設定してたら安心できるわけねェだろうがボケっ!」


 ニートボールのツッコミは御尤もだが、


「でも、見た感じここを通るのはそんなに難しくはなさそうですよ」


 通路には赤い光線が張り巡らされてはいるが、結構ガバガバなのだ。


「問題は光線に触れた場合どうなるかだな」

「ゲームマスター、触れたら一発アウトですか?」

『いいや、痛い思いをするだけだ』

「…ちょっと試してみていいですか?」

『構わんぞ』


 確認をとってオミズは持って来ていた鉄パイプで光線に触れる。その瞬間何かが高速で発射され、鉄パイプに当たる。

 床に落ちて転がるそれは、直径2cmの鉄球。

 

「…確かに当たったら痛そうだな」

「でも、死ぬことは無さそうですよ」


 手に伝わってきた衝撃からオミズは、一発で動けなくような威力ではないと察した。


「四つのステージに別けて、痛ぶるつもりか」

『触れなければ良いだけだろ。では試しも終わったところで、第五ミッション・ステージ1、スタートだ』

「おい、ちょ…」


 早々に指を鳴らし開始してしまう紅、ここでは時間を使わない予定なのだ。

 モニターのタイマーが進みだす。

 

「今回は作戦タイム無しかよ!?」

『作戦など必要無いだろ』

「順番とか決める必要があんだろうが!」

『ならさっさと決めるんだな。我からすれば速く渡れる順以外にないと思うが』


 紅からすれば話し合う必要すらないと思っているのでタイマーを止めない。


「私から行く」


 一番手を買って出る高木刑事。


「何か仕掛けがあるかもしれない。私の通り方を参考にしてくれ」


 一番手は時間的猶予はあるものの、見えていない罠があった場合は一番危険と言える。


「二番手はアタシが行きますね」


 相談ではなく断言するオミズ。無理もない、ニートボールが先ではつっかえそうなのは容易に想像できる。それは、


「オレが最後か…、さっさと渡ってくれよ」


 ニートボール自身も同じなので、後ろを気にしなくて良い最後を拒否しなかった。


 順番が決まったことで高木刑事が前に出る。


 最初の光線は、1mの高さで横に一本。屈んで潜るだけで通れる。


 次の光線は、縦に等間隔で三本並んでいる。間隔は体を横に向ければ高木刑事でも余裕に通れる幅がある。


 その次は、上下縦に二本と左右横に二本の光線が張られている。真ん中が一番広く、上の横線と左右の縦線に触れないように、下の横線を跨ぐ。


(これも簡単に通れる、罠もない……)


 高木刑事は簡単過ぎることに違和感を覚えながらも、後ろを待たせない為に時間をかけず進む。


 次の光線は移動していた。縦線が一定のリズムで横に動いている、それが奥に三連で続いていた。

 だが、光線が移動するスピードは大して速くなく。タイミングを合わして触れないように通るのは三連続でも高木刑事には容易。


(ここも後出しで罠などはない…。簡単過ぎて腑に落ちないが、これなら後の二人も…)

「ぐへぇっ!」

「え…?」


 予想を外れて後方からの呻き声に振り返る高木刑事。



『くくくっ、そんな簡単なことも出来ないのかニートボール』


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