第88話 ゲームマスター ⑰ 三人称


 第四ミッション、ロシアンルーレットの説明がされモニターは消える。


「クソっ、結局誰か死ぬんかよ!このまま皆殺しにする気じゃねぇのか、あのコスプレ女!」


 これまでミッションにつき1人死んでいるのだ、ニートボールがそう叫ぶのも無理はない。


「どこまでも人の苦しめる、あの女は悪魔なのか?」


 散々振り回されてる高木刑事に至っては、くれないを本気で悪魔のようなこの世に非ざる存在なのではないかと疑ってしまう程だ。


「ロシアンルーレット、今回は完全運勝負なの……違う、ルールに違和感が…。それに「1人いなくなる」と言った……絶対何かあるはず」


 オミズはミッションをクリアすることだけを考える。


「……、……あの、良いだろうか」


 パチンカスはじっくり考えた後、手を小さく手を挙げて三人に提案する。


わしが身代わりになる」

「「「っ!?」」」


 パチンカスの突然の身代わり宣言に驚く三人。


「何を言ってるか分かってるのかパチン、いや…古田さん」

「もちろん、皆の順番ではわしに銃を向けて引き金を引いてくれ」

「…おっさんが身代わりになってくれんのは助かるけどよ…」

「どうしていきなり?」

「何か考えがあるんですか?」

「…いや、単にわしが一番年配者だから、…犠牲になるなら私であるべきと考えたんだ。それにさっきの様な残酷な殺され方をするぐらいなら、撃たれて死ぬ方がマシだと思えたから…」


 パチンカスの説明に三人は納得がいかなかった。

 第二第三で必死に生きようとしていたパチンカスが、ここに来てに身代わり宣言は不自然。特別な考えがあるのかと思えば、説明は取ってつけたような軽い内容。


「…まぁ、撃って良いつうならオレは撃つけどよ」


 とは言え他三人からすれば命の危険が少なくなる申し出、断る理由はない。

 

「…ゲームマスター、質問良いですか?」

『構わないぞオミズ』


 オミズの言葉にモニターはつけず言葉だけで対応する紅。


「身代わりの人を狙ったけど、弾をはずしてしまった場合はどうなりますか?」

『故意に外したのでないなら身代わりに被弾したと判断する。引き金を引いた者を害することは無い』


 オミズが考えたのはパチンカスが動いて弾をはずす可能性、拘束されているのは胴だけなので頭を傾けることぐらいは出来る。だが故意に外さなければ害されないならパチンカスに向けて引き金を引く事にデメリットはない。


「私も聞きたいことがある」

『何かな?高木刑事』

「第三ミッションの初めに言っていた、裏切り者は田中で正解だったのか?」


 残酷過ぎる処刑のせいで確認していなかった、ハチグレが裏切り者かの解答を聞く高木刑事。


『くくくっ、本当にそれを聞きたいか?』


 意地の悪い聞き返しをする紅。


「…その言い方は裏切り者ではなかったということか」

『そうだ、ハチグレは裏切り者ではない』

「では、まだこの中に裏切り者は居るわけか」

『当然だな』


 紅の言葉と同時に三人も同時にパチンカスへ視線を向ける。


「ち違う、わしは裏切り者じゃない。わしはただ身代わりに…本当に生き残るなら皆だと思って」

 

 焦るパチンカスの様子がより怪しさをます。


『一つアドバイスをやろう。我が呼んでいるあだ名について話し合ってみるといい』


 適当に決めたとしか思えないあだ名。しかし理由を聞いて皆が納得する名も中にはある。


「あだ名について話し合えって、オレのはコスプレ女が説明してたじゃねぇかよ。…オミズはやっぱり水商売やってたからか?」

「まぁそうだと思います、解雇されてますけど。…高木刑事はそもそもあだ名じゃないですよね」

「姓+職業はあだ名とは言わないだろうからな。…古田さんはパチンコが好きなので?」

「…あ、ああ。よく打ちに行く」

「おっさんは闇カジノに通ってるとも言ってたよな」

「…闇カジノに通うようになったのはここ一年ぐらいで、だな、その」

「借金もギャンブルが原因ですか?」

「…え、あ、うむ。ギャンブルに…よるものだ」


 受け答えが挙動不審なパチンカス、怪しさは増すばかり。

 

「古田さん、何を隠している?」

「何も隠してなど…」

「絶対隠してることあんだろ、おっさんが裏切り者なんか?」

「違う!それは本当に違う!」

「…まぁ、裏切り者が身代わりになるって変ですものね。ハチグレさんのように高木刑事を殺そうとするなら分かりますけど…」


 裏切り者と聞けて直ぐに思いつくのは「○○を殺せ」と指示されてる可能性。ハチグレはゲームマスターが主役と定めている高木刑事を強引に殺そうとした。

 オミズがハチグレの頭を殴ったのは、裏切り者が可能性が高いとも考えたからだ。


「そういや、あの眼鏡は何でハチグレなんだろな?」

「…半グレのリーダーと言っていたから、それがかかってるんだろうな」

「やり過ぎた半グレ…八割グレているで、ハチグレですかね」

「……あだ名に法則性とかは無いよな。何を話しあんだよコレ?」

 

 ニートボールの疑問に答えれる者はこの中には居ない。


『これ以上は話し合っても無駄のようだな』


 答え知る紅がモニターに映る。


『休憩時間は終わりだ』


 当然答えを教えるわけなどなく、


『銃を取れニートボール。一番手に引き金を引くのはお前だ』


 第四ミッションの開始準備に入る。


「あんっ!?何でオレから何だよ!」

『ニートボールであることに理由はない、そこに座った者を一番手にすると決めていただけだ』


 偶然だがニートボールが座っているのは紅が映るモニターの正面。


『銃を引く順番は時計回りだ』


 ニートボールから時計回りは次がオミズ、その次は高木刑事、最後がパチンカスとなる。


「え、6発で4人だからアタシと岡本さんは2回引き金を引く事にもなり得るじゃ…」

「あ、そうじゃねぇか!不公平だろ!」

『お前らが勝手にその席に座ったんだろ、不満はその席を選んだ自分に言え』


 席が指定されていて勝手に順番が決められたなら仕組まれてると考えれるが、自由に席に着いたのだから公平なランダムな順番とも思えれる。


『さっさと拳銃を取れニートボール。それとも爆死の方が御望みか』

「うなわけねぇだろ!…ほんとクソだなコスプレ女」


 ぶつくさ言いながらテーブル中央の拳銃を手に取るニートボール。

 

「これが本物の拳銃か、結構重てぇな。……弾見えねぇな」

『見えない銃を用意してるに決まってるだろ』


 銃は外から弾が見えないのはもちろん、リボルバーを簡単には外せないように改造されている。


『引き金を引く前に撃鉄を起こせよ』

「撃鉄…ああ、この後ろの出っ張りか」

『ルール説明で言ったように、制限時間は1人一分だ』


 お決まりのモニター上部にタイマーが表示される、違うのは数値が【01:00】であること。


『一分以内に自分か身代わりの頭部を狙って引き金を引け』

「分ぁってるわ」

『では、ミッションスタート!』


 今までで一番あっさりと第四ミッションが開始された。


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