第84話 ゲームマスター ⑬ 三人称


 ハチグレは高木刑事の嘘以降はほとんど聞き流していた。

 これまでのハチグレからすれば、ニートボール以上に率先して詳細を聞き出しそうとしてもおかしくない。

 なのに大人しくしていたのは、


「俺の話をする必要はない、裏切り者が分かった」


 自分の嘘が開示される前に、誰かを処刑しなればと考えていたからだ。


「本当かよ眼鏡」

「ああ、皆の頭にも浮かんだんじゃないか「こんな男が警察官で良いわけがない」とな」


 ハチグレの言葉に”ビクっ”と体を震わせる高木刑事。


「裏切り者はあんただ高木刑事」

「ち違う、私は裏切り者などでは…」

「犯罪同様自覚がないんだよ。あんたの行動は警察官の存在意義に叛いている。つまり警察に対しての裏切りだ」

「っ!?…そんな…ことは……」


 否定したくとも出来ない程、高木刑事の意志は弱わっていた。本当に自分が処刑されるのが一番良いのではないかと思ってしまうほど。

 

 他三人は、

 パチンカスは自分が処刑されない為に余計なこと言わず様子見。

 オミズは難しい顔で先のことを考える。

 ニートボールは、


「高木が裏切り者なのか?コスプレ女」


 くれないに解答を聞いた。

 ここまででも分かるように、ニートボールは思ったことを直ぐ口に出してしまうタイプなのだ。

 

 その問いかけをくれないは、


『ハチグレの嘘はまず、偽名を使ってることだ』


 完全に無視してハチグレの嘘の開示を始めた。


「おい、待てゲームマスター」

『仕事は営業職と類似する内容も多いが、サラリーマンとは呼べないだろう』

「待てと言っている!裏切り者は見つかった、それが第三ミッションの本題だろ!俺の嘘を話す必要はない」

『…そうだな、ハチグレは常に冷静に適格な発言をしてると言える』


 くれないのその言葉に聞いた瞬間ハチグレは安堵し、


『くくっ、だからこそ全員の嘘をに開示しなければならないな』


 続く悪魔のような笑みと共に紡がれた言葉に畏怖する。

 そしてハチグレは経験から口ではなく体を動かす。

 

「ぐっ!?…何をする!」

「さっさに入れ!高木刑事!」

 

 強引に水晶の処女クリスタルメイデンに押し込もうと、高木刑事に掴みかかった。


『罪についてだが、ハチグレは特殊詐欺から足を洗っていない。寧ろ彼は犯罪グループのリーダーだ』


 ハチグレが隠したかった嘘が開示されていく。


『俗にと呼ばれるグループだ。ハチグレのグループが犯した罪は特殊詐欺だけではない。窃盗・強盗、ヤク物密売、そして殺人』

「マジかよっ!?凶悪犯じゃねぇか!」

『ハチグレが逮捕され、全ての罪状が知られれば死刑は免れないだろうな』


 ハチグレの嘘に他4人が驚愕する。


「出鱈目だ!俺を殺す為にあの女は出鱈目を言っているんだ!」

『お前の時だけ出鱈目を言うわけがないだろ。それにハチグレを殺すかは他の4人が決めることだ』

「田中さん、本当に犯罪グループのリー…ぐぁっ!」


 ハチグレの膝蹴りが高木刑事の股間にきまる。


「黙って入れ!犯罪刑事!!」


 犯罪グループのリーダーだけあって荒事にも慣れているハチグレ。そのまま水晶の処女クリスタルメイデンに押し込む。


「警察官なら犠牲になれ!氷川とか言う奴もそうしただろ!」


 高木刑事に拳を叩き込みながら、閉じようとするハチグレ。


「や、止めろっ…、氷川は、お前なんかの為…」


 痛みに耐えながら、閉じられないよう抵抗する高木刑事。


 弁論での対決だったのが暴力での対決に変わってしまう。

 これも紅にとっては想定内。

 第二ミッションのトロッコ問題で自害の選択肢を増やしたように、第三ミッションでも暴力での強制処刑という選択肢を取り除かなかった、


『くくくっ、滑稽だな』


 その方が面白いショーになると考えたから。

 

 だが、このまま高木刑事が処刑されては主役が居なくなってしまう。

 それは紅にとって本当に困る展開。

 しかし、そうならないことも予想している。


「ぐはぁっ!!?…」


 静かに近づいていたオミズが、鉄パイプでハチグレの後頭部をぶん殴った。


「っ!?磯野さん…?」

「ア、アタシは、おバカな警察官と賢い凶悪犯、処刑するなら賢い凶悪犯だと思います!」


 オミズの叫びに、ニートボールとパチンカスも「はっ!」となる。


「その通りだ!眼鏡を閉じ込めるぞ、おっさん!」

「あ、ああ」

「高木刑事、早く出てください」


 高木刑事を退かし、ふらつくハチグレをニートボールとパチンカスが水晶の処女クリスタルメイデンに押し込む。


「や、止め…ろ」


 頭のダメージが大きく体に力が入らないハチグレは、ろくな抵抗も出来ず閉じ込められる。

 水晶の処女クリスタルメイデンは閉じるだけで、中からは絶対に開けれない作りになっている。


「ボタンを押して!」


 ボタンの一番近くに居るのは高木刑事。

 

「いや…し、しかし…」


 ハチグレは凶悪犯、さらに自分に暴力を振るい処刑しようとした相手。それでも高木刑事の手はボタンに伸びない。


『最後にハチグレがここに来た経緯だが、ヤリ過ぎて大手暴力団を怒らせたからだ。力づくで連れてこられたのは嘘ではないが自業自得だな』

 

 ハチグレの嘘の続きを話すくれない

 これは高木刑事への後押しではない、話を締め括る為だ。


『さて、全員の嘘の開示が終わった。残りは2分か、ボタンを押さなければタイマーは止まらないぞ』


 水晶の処女クリスタルメイデンに閉じ込めるだけでは処刑にならない。ボタンを押して起動させることで処刑となる。


『高木刑事、凶悪犯であろうとここで処刑するのは正義ではないと考えているのだろう。では、そのままボタンを押さず無実の一般人もまとめて見殺しにするのが正義なのか?」


 高木刑事はその言葉に、震えながらボタンに手を伸ばす。

 だが、


「止めてくれて…、頼む…殺さないでくれ…」


 ハチグレの命乞いに動きが止まる。


「もういいっ!退けポンコツ刑事っ!!」


 見かねたニートボールが高木刑事を押し退け、バンっ!と勢いよくボタンを押す。

 

 ブザー音が鳴り、タイマーが止まる。

 と、同時に水晶の処女クリスタルメイデンが後ろにスライドするように動きだす。そして背後の壁の一部か開き、水晶の処女クリスタルメイデンが入っていく。


「クソっ!出せ、出せぇ!」

 

 中のハチグレが暴れるも動きは止まらない。

 完全に入り壁が閉まると、高木刑事達の居る部屋の少し暗くなり逆に水晶の処女クリスタルメイデンが入った部屋の明かりがつく。

 明暗が逆転したため、隣の小部屋が見えるようになる。


「なんだこりゃ!?」

「大量の針…いや、杭?」

「穴が開いていたのはこの為…」

「まさか、あれ…全部が…」


 今まで見ていた水晶の処女クリスタルメイデンは拷問機具の一部分、全体像は大量の杭が突き出ている小部屋なのだ。

 

『しくじったなハチグレ。お前ならクリアもあり得ただろうに』


 知力・体力・経験、ハチグレの総合的能力は高い。弁論でも暴力でも他の誰かを処刑することは出来ただろう。


『お前の敗因は驕りだ』


 嘘の開示は危険になると悟りながら、自分なら何とか出来るという驕り。


『そんなんだからお前はここにいるんだろうがな』


 水晶の処女クリスタルメイデンが小部屋の中心に着く。


『さぁ、お待ちかねの拷問処刑ショーだ』

「ま待ってくれ、俺の能力を、認めてるなら、あんたの下で、働かせてくれ。いくらでも稼いでみせる!」


 最後のあがきで紅に命乞い交渉を試みるハチグレだが、


『生憎と我は金に執着していない』

「何でもする!だから命だけは!」

『ならば、精々死に様で興じさせろ』


 デスゲームにおいても残虐拷問ショーにおいても全く無意味な行為だ。


「待っ…」

『ミッションフェイルド失敗


 くれないが指を鳴らすと、杭の一本が高速で伸び、穴を通ってハチグレの右肩に突き刺さる。


「ぐあぁっ!?…」


 息つく間もなく、次の杭が左太ももに突き刺さる。


「がぁぁぁっ!…」


 次は右臀部に杭が、その次は左肩。致命傷となり得る胴体は後回し。

 

”ドシュっ、ドシュっ、ドシュっ、ドシュっ、ドシュっ、ドシュっ”


「ひぃっ!」

「うぇっ!」

「いや…」

「こんな…」


 大量の杭が全て刺さるまで苦しみぬき悶え死ぬ様をじっくり鑑賞出来る。

 それが、

 全自動拷問機水晶の処女クリスタルメイデン


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