第82話 ゲームマスター ⑪ 三人称


 紅の「嘘をついている」の言葉に、


「私は嘘をついていない」

「さっきオレは嘘をついてないって認めてたじゃねぇか」


 高木刑事とニートボールの意義の声。

 

『高木刑事の嘘は別の問題として、ニートボールは言い逃しただけだな。連れてこられた最初の部屋でされた説明』

「あん、言っただろうが、親に売られたって。…そういや、ゲームクリア出来たら報酬2500万とかも………これってオレだけなのか?」

『いいや。同じ鉄格子の部屋に居た4人は報酬3000万と説明されている』

 

 デスゲーム型残虐拷問ショーではあるがクリア報酬は設定されている。

 ニートボールの場合、出場者として売却された契約の為、報酬の500万はクリア出来なくとも親に支払わることになってる。


『高木刑事にはゲームクリアしても金銭の報酬はない。金よりも悪を捕まえることが望みの様だからな、主役に相応しいだろ』


 金銭での報酬がないから首輪がない、これが公平である理由の一つであった。


「…嘘と言うのは、3000万目当てで出場してるのを隠してることか…、それが裏切り者…?」

「確かに報酬3000万の説明はされたが俺は嘘をついていない。自主的と思われたくないから言わなかったんだ」

「アタシも暴力団に脅されたのは本当です」

「わ、わしもだ」

「…おいクソコスプレ女、誰がどんな嘘をついてんだ?」

『我がそれを言ってしまっては面白くないではないか』

「こっちは初めっから面白くねぇんだよ」

『とりあえず、各自が考える推論でも話して見たらだろうだ』

 

 第三ミッションはいわば弁論対決。自分以外の1人を処刑させる為に、他3人を納得させることが重要。


「俺から良いか?」


 一番手を望んだのはハチグレ。


「俺が考える処刑候補は2人。岡本と高木刑事だ」

「ふざけんなのよ眼鏡!」

「私は裏切り者ではない!」

「話を最後まで聞け。でなければ言い合うだけでタイムアップになるぞ!」


 ハチグレの言葉に不満ながらも黙る2人。


「まず、岡本を候補に上げたのは裏切り者だからというより、この先で足手まといになる可能性が高いからだ。体型から運動が出来るとは思えない、さらに短気で反射的に罵倒を口に出す」

「お前がオレの何を知ってんだよっ!」


 一度は黙りながらもハチグレの言う通り、反射的に声が出るニートボール。


「…お前は「動画配信で稼いでた」と言ったが、ゲームマスターはニートと言っている。稼げているのは微々たる額で親に養ってもらってるんだろ」

「そ、それは…」

「見た感じ俺より少し年上。30代後半のニート、役立たずで大飯ぐらいの息子を親はデスゲームに売った。自分でも薄々気づいてたんじゃないか」

「っ!……う、うっせよ…」


 ハチグレの言葉はニートボールにとって図星であり、弱々しい声しかでなかった。


「次に高木刑事だが、ゲームマスターは彼を主役と称した。重要な人物と言えるが、逆に言えば主役が居なければショーが成り立たない。高木刑事を処刑すればゲーム終了の可能性がある」

「それは憶測が過ぎるだろ」

「アタシもちょっと、都合よく考え過ぎだと思います…」

「ゲームマスターは鉄格子の中の4人は仲間ではないと言っていた。その中に高木刑事は含まれていない」

「私があの女の仲間だと!?バカを言え、氷川はお前達を助ける為に死んだんだぞ!」

「それが俺には出来過ぎに思える。死ぬ瞬間はよく見えなかった、挟まって死んだよう見せかけたとも考えられる」

「そんなことに何の意味もないだろ!」

「それもゲームマスターが言う、ショーを楽しむ為が理由なのだろう。小説とかでは主人公と見せかけて黒幕なんてオチもあるからな」


 高木刑事からすればハチグレの言っていることは暴論でしかなかった。

 だが、

 

「なるほど、こんな非現実的状況だからな…」

「一理あるようにも思えますね…」


 高木刑事のことを何も知らない者からすれば、筋が通ているようにも聞こえる。


「一先ずこれが俺の推論だ。何か意見はあるか?」

「オレはお前が怪しいと思うね」


 次の推論はニートボール。


「理由を聞こうか、ただ単に俺の推論が気に入らないとかはやめろよ」

「さっきの話だけじゃなく、お前は初めから落ち着き過ぎなんだよ。首が吹き飛ぶところを見たのにだぞ、あり得ねぇだろ」

「それは逆言えば命がけの状況でも冷静に思考できる優秀な人間という事だ」

「裏の業界に関わっていたなら、あのクソコスプレ女とグルで裏切り者の可能性は一番高いけぇ」

「俺が裏切り者なら正直に裏業界に関わっていたと言うわけないだろ。寧ろその知識をクリアの為に役立てようとしている」

「…ちっ……とにかくオレは、その眼鏡が一番怪しいと思ってる」


 ハチグレとニートボールが自分の推論を言ったので、次は誰が話をするかと、視線を行きかわせる。


わしも、推論と言う程大したものではないが良いか?」

「裏切り者を見つける手掛かりになる意見なら」

「変に思う程度なのだが、岡本君がゲームマスターに暴言を吐いてるがの…」

「それの何が変なんだよ、おっさんはあのクソコスプレ女が憎くねぇのか!」

「いや憎いとかではなく、五月蠅くしたら爆破すると言ってたのに、暴言を吐いても爆破されていないのが変だと思うのだが」

「あぁ、裏切り者だから暴言を吐いても殺されていない、という考えか」

「そんなもん何の根拠にもなんねぇだろ」

「だが一意見としての価値はある。…磯野さんと高木刑事は何かあるか?」


 ハチグレの言葉に、


「アタシも気になってた事があります」


 オミズが小さく手を上げる。


「アタシが今着ている服は自前のですが、皆さんもですか?」

「?…私は気を失った時のままだから自前の服だな」

「普段から着てるスエットだよ」

「俺も仕事で着ている服だ」

「……わしも仕事の作業着で…」


 オミズの質問が裏切り者に関係あるのか疑問に思いながらも答える4人。


「…古田さん、工場の仕事で使ってる作業着にしては綺麗過ぎませんか?」

「それは、最近買い替えたばかりだから…」

「後ろに値札ついてますよ。流石にあり得ないでしょう」

「あ、いや、これは…」


 慌てながら後ろに手を回して、どこに値札あるのか探すパチンカス。


「フっ、悪い女だなオミズ」

「特殊詐欺をしていたハチグレさんにだけは言われたくありません」

「古田さん、値札なんかついていない」

「なっ!?」


 オミズは作業着が新品だと見抜き、カマをかけたのだ。


「その作業着は自前ではないですよね古田さん、どうして嘘をついたんですか?」

「…皆が自前と言うからつい…。この作業着は、報酬などの説明と同じ時に着ろと言われて」

「なんでおっさんだけ服が用意されてるんだよ」

「理由はわしにも……」

「何か隠してることがあるなら正直に言った方がいい古田さん、今のは明らかに怪しい」

「……わしには借金があって…」

「まさか、3000万欲しさに自ら出場したのか?」

「……他に方法がなかったのだ。それに本当にこんな命がけなどとは思わなくて…」


 自主的にデスゲームに出場した事を認めるパチンカス。

 裏切り者と決めつける証拠とまでは言えないが、強制的に連れてこられた者からすれば処刑されても自業自得だろうという考えも浮かんでくる。


「最後は高木刑事だが」


 まだ、推論を言っていない高木刑事。

 色々思う所はあるが、処刑する人間を決める弁論と考えると口から出ないのだ。

 それでも、


「一つだけずっと思ってた事がある。岡本さん…」

「あん、あんたもオレが裏切り者って言いたいのかよ」

「そうじゃない、岡本さんは…」


 高木刑事は水晶の処女クリスタルメイデンを指さす。


「入らないんじゃないか」

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